同社の株価は一時、前日比500円(9.4%)安の4810円まで下落し、終値は8.3%安の4870円を記録。発行済み株式数が約93万株であることを考えると、同社の時価総額は1日で40億円以上も下落したことになる。もちろん、同社のバランスシート上で資産価値が下がったわけではない。

そうではなく、バランスシートに表せない無形資産の領域で何かが起こったのである。

ファンの方はもうおわかりだろうが、2015年9月29日は、アミューズ所属の福山雅治さんの結婚報道発表があった日だ。それを受けて、翌日、同社の株価は大幅下落したというわけである。

「福山さんは一生独身かもしれない」との淡い幻想が世の女性にはあり、それが彼の(そしてアミューズの)ブランド力の重要な部分を形成していた。ファイナンス的に言えば、彼の結婚報道は彼のブランド価値を毀損させ、さらにアミューズ全体の企業価値に影響したというわけだ(ただし、彼の結婚が今後もマイナスの影響を与え続けるかは、はなはだ疑問であるが……)。

さて、ここまでがファイナンスの考え方の第一歩である。価格やコストに注目している限り、モノの本当の価値はわからない。ファイナンスは「目に見えない価値」にスポットライトを当てることで、適正な価格を見抜いていく。

その目に見えない価値が、企業価値の世界では「無形資産」として扱われる。

ところで、この見えない価値は、どうすれば見えるようになるだろうか?
そこに迫っていくことにしよう。

「モナ・リザ」をいくらで買うか?

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」と言えば、世界で最も有名な絵画の1つだ。この絵にはどれくらいの価値があるのだろうか?

モナ・リザともなると、将来的にオークションにかけられる可能性はほとんどないだろう。それに、オークションで決定される価格が、本来の価値を必ずしも正確に反映するとは限らないということは、以前の連載ですでに見たとおりだ。

もともとモナ・リザは最初から世界的絵画として扱われたわけではなかった。20世紀以降、徐々にこの絵画に対する評価が高まっていき、1962年にはアメリカでモナ・リザに保険をかけるための査定が行われたという。

その結果、この絵には1億ドルという評価がなされ、あまりに高額な保険料を引き受ける人がいなくなってしまった。物価変動も加味すると、1962年の1億ドルは2015年時点の7億3000万ドル(1ドル110円換算で約800億円)に相当する。そこで、保険に多額をつぎ込む代わりに、保安監視のほうに予算が充てられることになったそうだ。