今、電子工作がブームとなっていることをご存知だろうか。かつての電子工作と違うのは、インターネットの技術と情報、そして理念が盛り込まれていること。じつはこれは大きな意味を持つ。「生産者」となった個人は、大手メーカー中心のものづくりを脅かす存在になるかもしれない。そんな当世の電子工作ブームを読み解いていこう。(「週刊ダイヤモンド」副編集長 深澤 献)

「私、結構寝坊をするんですけど、目覚まし時計をインターネットにつなぐとおもしろいかも、と思って作ったのがこれです」

岩淵さんの作る作品に共通しているのは、ウェブとメカの融合。「これからはウェブとハードができる技術者が強い」というのが持論 http://koress.jp/
Photo by Toshiaki Usami

 そう言って岩渕志学さんは、「ソーシャル目覚し時計」を掲げてみせた。パッと見はなんの変哲もないが、裏側を見るとディスプレイとLANポートが付いている。
「パソコン(PC)を介さず単体でネットに接続でき、ネットからアラームの時刻を設定できるんです」

 しかも、ソーシャルネットワーキングサービス「mixi」上で動作するmixiアプリとしても機能する。マイミク(相互に友人関係を登録した相手)の人が自由にアラーム設定できる趣向だ。アラーム設定時間にはディスプレイに設定者のIDが表示され、止めた時間もmixiに記録される。こうして、起床時間と起こした人の履歴が残るというわけだ。

 岩渕さんの本業は、大手ウェブ企業のエンジニア。2007年2月に、同じウェブ関連のエンジニア3人でウェブの新サービスを開発するサークルを立ち上げたが、「本業だけに閉じていたら、大事なものを見落とす可能性がある」と気づき、2年前からハードウエアの製作に取り組み始めた。

 最初に作ったのは「2ちゃんねる赤色灯」。ある話題で発言数が急増し、いわゆる“祭り”が起こると、赤色灯が大回転して教えてくれるもの。赤色灯にLANポートが付いておりネットに直結、2ちゃんねるを24時間巡回するようプログラムされている。

「モノが実際に動いたときの感動の大きさは、ウェブとはレベルが違った」と岩渕さんは振り返る。

 最新作は「秋月ドランク」。機械に息を吹きかけると、血中アルコール濃度を検出し、ツイッターに「へべれけなう」などと自動で投稿するマシンだ。アルコールセンサの実験のために酒を飲んでいるうち、酔っ払ってはんだごてを持つ手が怪しくなったという苦心の作である。