主要企業の16年3月期決算が連日発表されていますが、連休前に航空大手2社、ANAとJALの好決算が発表されたことをご記憶の方も多いと思います。では、そのときの報道の幾つかが、「来年3月末に“8.10ペーパー”が失効した後は航空産業の競争環境もだいぶ変わり得る」と書いていたことをご記憶の方はいらっしゃるでしょうか。この部分は政策の観点から重要なインプリケーションを含んでいるので、今回はこの点について解説したいと思います。
“8.10ペーパー”の経緯
この“8.10ペーパー”とは、JALの新規投資を2016年度末まで禁じるものであり、国交省内に設置された検討会での議論を踏まえてまとめられました。
なぜそのようなペーパーが作られたかを簡単におさらいすると、2010年にJALが経営破綻したとき、当時の民主党政権はJALの再生に向けて過剰な支援を行なってしまいました。官民ファンドの企業再生支援機構から3500億円もの出資に加え、政府の事実上のバックアップがあったからこそ、金融機関などから5215億円もの債務放棄を勝ち得ています。また、既存の制度を使っただけとはいえ、税制優遇措置により2010~18年で合計4000億円以上の法人税減免措置も受けているのですから、これでは過剰支援と言わざるを得ません。
この政府による過剰支援の結果として、JALはピカピカの財務体質の会社となって蘇りました。売上高こそANA(16年3月期で1兆7900億円)がJAL(同期で1兆3300億円)を上回っているものの、当期利益はJALがANAの2.2倍で1000億円もの差があり、営業利益率もJALがANAの約2倍、有利子負債の額はJALがANAの約9分の1となっています。
しかし、大手2社による複占状況の航空産業で、このように片方が政府の過剰な支援を受ける一方で、もう片方は政府から何の支援も受けず自力で頑張っているようでは、航空産業内での公正な競争はとても確保できません。
そこで、国交省は省内に設置した研究会での議論を経て、2012年に8.10ペーパー(「日本航空への企業再生への対応について」)を取りまとめ、そこで2012~16年度におけるJALの新規投資や新規路線開設を抑制する方針を打ち出しました。