小刻みに増税していくフェルドシュタイン方式なら
毎年インフレ期待を織り込める?!

 景気循環の観点から消費税を考えるべきでない、という指摘はその通りだと思います。永田町の人たちは、不況のときでなく好況のときに消費税を導入すべきだ、という点にこだわりがあるように思いますが、こういうことを考え始めると、常に増税はできないという話になるように思います。

 というのは、景気循環的には、消費税を導入すると駆け込み需要が起きて、その後に反動がくるという、景気の波を起こすことが懸念されるわけですが、好況のときに実施すると経済をさらに過熱させた後に大きく落ちる結果を招き、景気循環は増幅されるはずです。しかし、だからと言って不況のときに増税したほうが駆け込み需要を起こすことで、景気循環を平準化するカウンター・シクリカル(変動を抑制できる)な政策かもしれない、という人はいない。これは政治的にはアピールしない議論だからでしょう。つまり景気循環論的な議論をし始めると、導入のタイミングがなくなりかねない。

井堀 景気循環と絡めて話をすると混線するから、やはり切り離して考えるべきでしょう。

増税の際の“上げ方”に工夫はできるかもしれませんけどね。何ポイントかまとめて上げると影響が大きいというなら、フェルドシュタイン(1939~、ハーバード大学教授)の提案を検討してみてはどうでしょう。彼が十数年前に提案したのは、日本は消費税を毎四半期に1ポイントずつ、5%から20%になるまで、小刻みに増税する、というものでした。ごく最近、毎年1%ずつ数年間、という同様の提案をしています。こうした漸進手法も一考の価値があるでしょう。実務的には煩雑になるでしょうけれど。

井堀でも昔と比べればIT化は進んでいますから、小刻みな増税でも対応は可能でしょう。たとえば、消費税が5%から8%に上がった際に電車や地下鉄の運賃が半端な額になったけど、駅の表示や切符の購入機の変更は昔よりずっと少ない手間で変更できたと聞きます。

 井堀さんがいわれるように消費税を15%まで上げる必要があるとすれば、あと何回か、毎回上げるの上げないのと大騒ぎになる。それは大変だから、毎四半期は無理筋でも、毎年1%ずつ小刻みにスケジュールどおり上げていくというのは一つのアイデアですね。

井堀 そうすると、消費税率引き上げによる住宅や車などの耐久消費財の駆け込み需要やその反動減というマイナス効果も緩和できます。また、日銀がやりたがっているインフレ期待を毎年織り込むことになる(笑)。

 その通りですね。毎四半期1%づつ上げる、というフェルドシュタインの最初の提案のポイントも、消費税を毎四半期上げ続けることでインフレ期待をつくることができる、ということでした。当時の学界の関心は、デフレ脱却のためのインフレ期待醸成だったので所得税の増収分は所得税を減税することで税収には中立的にする、そういう提案でした。これに対して、毎年1%ずつ上げる、という直近の提案のほうは、所得税減税とのセットではなく、財政の持続性をより強く意識したものになっていますね。【後編(5/18公開)に続く】