井堀 そういうリスクシナリオは十分起こり得ますね。
歳出の効率化や消費税の増税が予定通り実行できなくなってきた場合、日銀がいつまで国債を買い続けられるのかというのがひとつの焦点になります。当然限度がありますし、今後の日本の財政状況が改善する見通しが立てば、極端なインフレ圧力というのは起きない一方、プライマリーバランスの黒字化が不透明になっていったときもなお、日銀が今のように国債を買い続けるシナリオが中長期的に続くだろうとみなが思ってしまうと危ないですね。
日本経済が活性化して、財政健全化努力も進展する中で、日銀が国債の買取を縮小し、(もとの金融政策に戻す)出口戦略に向けば、なんとかなるかもしれませんが、同時にそのときは金利上昇リスクも吸収しなければならない。
いずれにしても、歳出削減や増税を回避しつつも財政健全化が可能であるかのようなウルトラCと言えるうまい手はないと思う。
しかも、金利が上がらない状況が続くと、国民全体に危機感がなくなるんですよね。ギリシャでも金利が上がることでプレッシャーを受け、歳出削減や増税を受け入れる気持ちができてくる。日本の場合、それもなくズルズル財政赤字が拡大しています。
デフレ脱却が展望できたら本当は困る?
日銀の金融政策の枠組み
翁 今の日銀の金融政策は、マーケットからのシグナルを遮断していますからね。今回、量的・質的緩和策に付け加えるかたちでマイナス金利を導入しました。マイナス金利下では、投資家は償還価格より高い価格で国債を買っているということを意味します。だから、日本国債は安全だから投資家も損失覚悟で買っているなどと言われますが、投資家が損をしてまで国債を買うはずはありません。実際、投資家は当然利ざやを稼ごうとして動いています。
つまり、国債を理不尽なほど高い値段で買っても、量的緩和を続けるために日銀がもっと高く買ってくれる筈だから買っておくんだ、という構造ですよね。こんなふうに、ある資産が値上がり期待だけで本来の価値以上に高値が付くという現象は、まさに典型的な“バブル”です。日銀の今の政策というのは、国債市場に人為的にバブルを作りだしているわけです。
バブルが崩壊するときは必ず金融市場は大きく混乱しますから、出口戦略もいっそう難しくなる。いつになるかわかりませんが、賃金上昇などで2%のインフレ目標達成に成功すれば、日銀は自分が政策的に作ったバブルを崩壊させる必要がでてくるわけですけれど、その時、どうやれば市場を安定化させつつバブルを潰せるのかはとても難しい。
ただ、デフレが続き、緩和政策を強化する方向ならこうした副作用はすぐには表面化しない。出口戦略が不透明というより、当面デフレ脱却は期待できないので将来については、思考停止状態になっているのかもしれない。出口が視野から遠すぎて不可避的なリスクを無視している気がします。だから、今の政策は、もしデフレから脱却することが展望できはじめたら本当に困る枠組みになっている、と思うんですよ。
井堀 インフレが実現したらね(笑)。
翁 それに、いまの日銀の金融政策の「サプライズ効果を重視してわざと唐突に政策を変える」、という特徴がマーケットに刷り込まれているので、もし多少なりとも出口に近づけば、ちょっとしたショックでも大きく予想外の方向に反応するかもしれない。だから、これまでのようにサプライズを演出し続けるのは、本当に危険ですね。今回のマイナス金利導入時には、最初に起きた反応が銀行株の暴落や銀行のベア凍結でした。 預金者のデフレ心理も増幅され、金庫が飛ぶように売れはじめたりしましたね。