「嫌われる」ことは、すごく重要なインプット

菅野由佳(仮名)
社会人3年目。シンクタンク/コンサルティング会社勤務。
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菅野 罵詈雑言浴びせる人って、それに時間を割いてるんですよね。

楠木 そうそう。

菅野 とくにスマホで記事を読む時って、短時間で流し見していくじゃないですか。そんななか、しっかりと罵詈雑言を書いてくるって、むしろ、すごい愛情じゃないんですけど…。

楠木 仕事の鉄則の一つだと思うんですけど、全員に愛されようと思ったら、誰からも愛されないですよね。誰かに愛される、必要とされるっていうことは、誰かから嫌われるっていうことと、ほぼ同じなんです。僕は嫌われるっていうことは、自分の価値を考えるうえで、すごく重要なインプットだと思っているんですよ。

 だから、何か批判されると、それはしょうがないと思う。若いうちは、へこむでしょう。ただしそれは、自分の特性とか、自分自身の好き嫌いに気がつく、重要なきっかけになるんですよね。僕は、批判などはよく聞きますが、必ずしも気にする必要はない。いろんな人がいるわけですから。

 宇尾野さんが前半でおっしゃったように、SNSなどで、人のことを知る機会が、昔と比べると格段に多くなってると思うんです。そうすると、「この人はこんなことをしているのか」「自分はどうするのか」って考えるんでしょうね。

幸か不幸か、他人の本質はよくわからない

楠木 SNSで見られることは、その人の、ごくごく表層じゃないですか。しかも、本人が表に出すと選択している表層なんですよね。

 僕の友だちにイデ君っていう人がいて。名前はどうでもいいんですけど。イデ君とコジマ君という、二人の仲が良い友人がいるんです。ちょうど、フェイスブックをみんなが使い出したころにコジマ君が、「しかしさ、イデのフェイスブックを見てると、すっげぇ、いいやつに見えるよな」って言ってきたんですよ。そりゃそうですよね。こんないいことがあったとか、こんなの楽しかったとか……ものすごく爽やかな人間に見えるよと(笑)。ま、実際にイデ君はわりと爽やかな人なんだけど。

 SNSがとくにそうですが、他人の表面的なことは色々と見えてくるんですけれど、その内側にあるもの、本質的なところは幸か不幸か、本当のところはよくわからないんですよね。

 すごく他人のことを気にする人が多いですよね。あいつがこう言ってた、とかね。本の中でも、部下が社会人大学院に行っていて、戦力にならないという相談がありましたけど、いいじゃねぇか、人のことなんか気にするなという話ですよね。

菅野 しかも、あの相談者の部下の方は、仕事を休んで社会人大学に行っているんじゃなくて、終業後に行っているんですよね。

楠木 そう。仕事の後の私生活なのに、気になるんですよね。最近の傾向の一つかもしれないですね。なんとなく、表面がいっぱい見えるので、人のことが気になると。

宇尾野彰大
社会人8年目。リクルートにて営業、人事、新規事業開発、事業企画などの部署を経て退職。今春よりITベンチャーのトライフォートにてサービス開発部門の責任者として勤務。
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宇尾野 個人的にはこの本の企画が、なんか、この世の中を表している感じがします。

楠木 かもしれないですね。

宇尾野 今回本の中に出てきた質問は、本質的にはすべて、あなたの責任でしょう、自分で考えればいいんでしょうと言えるんだと思います。けれども、自信を持ってその行動に移せなくて、人の意見が気になるのかなと感じましたね。

楠木 そうですよね。しかもね、その問題は自分の責任なんですけど。その責任っていうのが、大した話じゃないんですよ。しょせん1人の人間なんで、有限責任もいいところなので、あまり重く考える必要はない。そのへんも含めて、「好きなようにしてください」っていうことなんです。

※後編は5月20日(金)に公開予定です。