楠木建氏の著作『好きなようにしてください』を読んだ20代のビジネスパーソンが、著者本人にさまざまな意見をぶつける座談会の第1回。20代が持つ仕事観やキャリア観に対して、楠木氏は何と答えるのか。(撮影・鈴木愛子、構成・肱岡彩)
これからの世の中と自分のキャリアは関係ない
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。 著書に『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(すべて東洋経済新報社)、 『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。
楠木 20代というと、僕には遠い昔のことで、あまり自分でもはっきり覚えてないんですけど(笑) いま、3~7年働いていらして、ご自身の仕事やキャリアでどんなことが気になりますか?
宇尾野 僕は最近転職をしたので、転職を機に会話の質が変わったなと感じているんです。「なんで前職のリクルートを辞めたのか」とか聞かれることも多いですし、「こういうことを今後やりたいと思ってるんだけど」といったことなども話題に上ります。
そういった話をしている時に感じるのが、意外と多くの方が、この先のことを――10年、20年でもいいですし、1年でもいいんですけど、日々考える時間を取ってらっしゃらないんだなと感じることが多くて。
楠木 先のことについて考える時間を、取っていないと。
宇尾野 3月・4月は辞める人や異動が多い時期だと思うので、いろんな人が動いた結果、一瞬自分の将来について考えたりする人は多いと思うんです。フェイスブックで、「転職しました」といった投稿が多かったりすると、その時は考えると思うのですが…。
みなさん普段は、キャリアのこと、先のことって、どういうふうに考えるのかが、気になります。
楠木 そうですか。
社会人8年目。リクルートにて営業、人事、新規事業開発、事業企画などの部署を経て退職。今春よりITベンチャーのトライフォートにてサービス開発部門の責任者として勤務。
宇尾野 僕自身は手帳に夢を書く、というタイプではないんですけど。いま、やっていることは、次に何につながるかを考えながらやるタイプなんです。他の人のキャリアに対する時間軸を聞くにつれ、最近は違和感がありましたね。
楠木 いろんな切り口で仕事を切った時に、「個人のキャリア」がほかのいろいろなことより時間軸として長いんですよね。事業の寿命よりも、個人の寿命のほうが長い。
スマートフォンなんて、30年先には無くなっているかもしれませんけど、平均的な寿命で言えば、皆さんは30年後も生きている。しかも、まだ、仕事をなさっている確率がわりと高いと思うんです。
キャリアというのは本来的にやたらと時間的に足が長い問題なので、これが面白いところであり、また、とってもキツいところでもあると思うんです。
いいところは、「じっくりいける」ということ。いまの宇尾野さんの仕事だと、納期があってとか、比較的短い時間軸で動いている部分も多いと思うんです。それでも、ご自身のキャリアは長いので、あまりジタバタしなくてもいい。
ただ一方で、長くなると、誰も先のことはどうなるのか分からない。先のことを考えましょうっていうのは、当然キャリアにおいて必要なんですけど。その時に、何を基準に「先のこと」を考えるのかが、大きな分かれ目だと思うんですよ。
たとえばね、自分のキャリアを考える時に、「これから世の中はどうなるのかな」と考える人がいるんですよね。たとえば、これからこういう仕事はもうなくなるとかいう基準で考えるのは、僕は大嫌いでして(笑)
宇尾野 ああ、最近多いですね(笑)