楠木建氏の著作『好きなようにしてください』の読者座談会。前編では、一人ひとりの好き嫌いが表明されており、お互いが補う形で運営されるのがよい組織だという話題で盛り上がった。しかし、自分の好き・嫌い、得手・不得手をどのように判断すればよいのだろうか。そんな疑問に楠木氏が答えます。(撮影・鈴木愛子、構成・肱岡彩)

「合わないこと」の経験は、自分の好き嫌いを明確にする

高橋裕美(仮名)
社会人7年目。インターネット企業にて、営業、秘書を経験後、現在は食に関するサービスを担当。
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高橋 ラグビー選手が自分はパスが不得意だと考えて、パスに頼らない戦術を取るようになりました(前編参照)。そこに至るまでの時間って、どう思いますか? その選手も、パスに向かないという結論が出るまでに、10年ぐらい練習してきた期間があります。

 自分のキャリアに置き換えて言うと、私は、新卒時代は営業をやっていたんです。正直なところ、営業がすごく辛かった。働くと言うこと自体に慣れていなかったこともあったかもしれないけれど、適性で言ってもたぶん合っていない。

 その後異動で別の仕事をしてみて、そこまで無理を感じずに仕事をこなせたことから、やはり適性というのは存在するんだと改めて感じました。ただ、自分の中で自分のキャリアを正当化したい部分もあるから「あの経験があったから、自分の適性が分かった。あの辛い時期を乗り越えたから今がある」と思うんです。

 けれど一方で、もしかしたら配属の段階で適性診断をやって、適性の高い別の部署に配属しようっていう選択をしてもらっていたほうが、自分も周りも幸福だったかもしれないと思う部分もあるんです。実際にはそうならなかったので、比較はできないんですけど。

 適性を知るまでの時間については、どう思われますか?

楠木建
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。 著書に『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(すべて東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。
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楠木 高橋さんの仰るのは、もし、より正しい適性診断が事前にあったら、営業配属がなかったと思うということですよね。

高橋 そうです。

楠木 僕は「事前の適正な適性判断」はそもそも無理だと思っています。やっぱり、まずはやってみるしかないと思うんですよね。向いている、向いていないっていうのは、長期的にちょっと時間を置いて、成果が教えてくれるとしか言いようがない。

 営業に向いてないなと、具体的にはどんなところで思ったのですか?

高橋 たとえば、営業に向いている人は、あくまで自分の経験からですが、すごく切り替えが早く、上手くいかなかった時の原因が、あまり自分に向かない。そういう人が、成果を出していると感じましたね。

楠木 それはありますよね。それも個人のパーソナリティみたいなものなんですよね。

高橋 そうですね。

楠木 営業が向いていないということはもちろん、「向いていることは何か」についての理解も、営業の経験の裏返しで、初めてわかると思うんです。

 向いてないと思ったところから、ずるずる、さらに20年間経ちましたというのは、ちょっと問題かもしれないですけれど。2年ぐらいっていうのは、結構イイ感じなんじゃないですかね。