具体と抽象の往復運動
楠木 本の中で触れた「具体と抽象の往復運動」という話と関係があるのですが、営業という具体的な日々の仕事が自分には向いてない。これはなぜなのかな、と高橋さんは考えた。営業に向いている人の本質は「切り替えが速い」「原因を自分に向けない」などがあるとわかった。この本質は、自分の好き嫌いからすると向いてない。
さらに思考を進めていくと、高橋さんの場合は、常に自分に理由や原因が向く仕事のほうがいい……。そのように次第に、抽象的な理解が進むんですよね。このように、具体と抽象の往復運動をしていると、次の仕事で前より深い判断ができるようになると思うんです。合わないかもと思った営業を経験したことは、重要な意味がある。
僕は営業はわりと好きですね。いまの職場の学校の営業は僕がやらされることが多い(笑) 大学にも営業の仕事が結構あるんです。たとえば、寄付講座とか、エクゼクティブ・プログラムを会社に売るとか。これは好き嫌いの問題ですから、そういった営業をすごく嫌がる人もいる。おっしゃるように、うまくいかなかった時に、「自分の何がまずかったのかな」と考える人は、あまり向いてないですよね。
僕はそういうことは一切考えないタイプですね。すべてはお客様が決めると思っているから。僕の営業の仕方っていうのは、たとえばいろんな経営者の方に、こういう教育プログラムを買いませんか?とアポを取って、いきなり、「おめでとうございます。ツイてますね、社長。今日はいい話もってきましたよ!」と言って入っていきますね。相手が「なんだそれって」言ったら、「こんないいプログラムがあるんですけど、御社もいかがですか」って。そう言ってみて反応が悪かったら、すぐ帰っちゃう。「お呼び出ない? こりゃまたどうも失礼しましたー」っていう感じなんで、一切気にならない(笑)
世の中好き好きですからね。僕は何を言われても平気。僕のこれまでの本では、どちらかと言うとおじちゃま、おばちゃまが読者だったんです。けれども、今回の本の元になる連載が掲載されたNewsPicksは、読者が若い方なんです。そうするともう、全然ソリもノリも合わなくて。
とくにスマートフォンっていうメディアは、みんなが電車の中でサーッと読むことが多いので、僕の文章のスタイルを含め、いろいろと向いてない媒体だったんです。で、ものすごい罵詈雑言をバリバリっといただいて。でもまったくそういうのは気にならない。反対におもしろがるほうですね。「ほう!こんなふうに、みんな怒るんだ……」みたいな発見がある。
本を出すと、必ずアマゾンなどで、一つ星もダーッと並ぶんですね。「金返せ」「時間を返せ」「頭でっかちの机上の空論!」などなど…。僕の夢なんですけれど、そういう方をお招きして、膝を突き合わせて座談会やりたいんですよ。俺のどこがそんなに嫌なんですか、ぜひもっと詳しく教えてくださいって。果たせぬ夢なんですよね(笑)