チームの空気は、「内定をすでに決めたのだから、学生が余計なことを言うんじゃない」といったものだった。筆者は、学生の言い分は正論だと思った。聞く限りでは、最終面接まで残っていたが、不採用となったらしい。理由を知りたいと思うのは当然ではないか。理由を聞くことで、今後の就職活動にも何らかの形で生かすことができるだろう。ところが、採用チームのメンバーは「うつ病だから相手にしないほうがいい」と、それ以上話題にしない。

 2週間ほど後、再びこの採用チームを取材した。メンバーによると、あの学生はさらに電話をしてきたという。「不採用になった理由を知りたい」と繰り返したようだ。筆者はこの学生と面識はないが、心の中でエールを送っていた。チームのメンバーは、こんなことを言いたいかのようだった。

「俺たちは、学生を雇ってやっているんだ。余計なことを言うんじゃねぇー」

理由など説明できるはずがない
「相対的」に評価を決める人事部

 日本企業では採用に限らず、配属、人事評価、人事異動、リストラなど、人事に関わる様々なイベントが常に「上意下達」である。人事権を持つ上層部で決まったことに「下につく人たちは無条件に従え」と言わんばかりの風土がある。

 それに疑問を呈すると、「逆らった」「生意気」「造反」と反感を買うばかりか、ひどい場合には「うつ病」と揶揄されることまである。結局、本音や事実を隠し、建前や歪曲された「事実」を伝える話し合いの中で、人事による決定事項が社員に告げられる。

 なぜ日本企業は、採用や配属、昇格、異動、リストラなどのときに、社員にありのままの評価を伝えないのだろうか。それは、前述の採用チームのリーダーが発したこの言葉にヒントがある。

「採用は、相対的に決まる。いきさつや理由、背景をきちんと説明できるわけがない」

 この「相対的に決まる」という言い分が、曲者なのだ。2011年、ビジネス雑誌の特集(テーマは人事評価)で取材したことがある、50代の著名な人事コンサルタントの言葉を使い、補足したい。