では、クリントン氏はTPPについてはどのような立場なのか。
「雇用創出や賃上げ、安保促進につながる場合のみ賛成。現時点では条件を満たしておらず反対」
オバマ政権で積極的にTPPを推進してきた人物とは思えない発言だ。予備選を勝ち抜くための方便だとみる向きもあるが、今回の大統領選では、自由貿易主義を標榜する共和党候補さえもTPPに反対の立場を取っており、一度振り上げた拳を下ろせなくなる可能性もある。
為替政策については、両氏共に日本の円安“誘導”政策を批判している。新大統領の下、もしも円高が進行すれば、自動車や鉄鋼、電子部品など日本の主要輸出産業が大きな影響を受けることになるだろう。一方で、石油や電力・ガス、日用品は円高による輸入価格の低下で恩恵を受けることになる。
共に対中強硬だがトランプは経済面で中国と手打ちの懸念
対中政策についてはどちらも強硬な姿勢だが、一点大きな違いがある。クリントン氏は経済面だけでなく安全保障面でも、中国に対して国際的なルールに従うことを強く求めているが、トランプ氏の対中批判は経済面に偏っている。「中国との安易な“取引”に走るリスクがないとはいえない」(安井明彦・みずほ総合研究所欧米調査部長)。
外務省関係者も、「カネで話がつくとなれば、中国やロシアからすればトランプは御しやすい相手」と警戒する。
トランプ氏の対日政策についての主張で最も衝撃的なのが、日本の安保タダ乗り論だ。「日本が攻撃されれば、米国はすぐに助けに行かなければならないが、われわれが攻撃を受けても、日本は助ける必要はない。条約は片務的であり不公平だ」と、現在の安保条約を批判。いきなり駐日米軍撤退とはならないだろうが、日本にさらなる費用負担を求める交渉材料として使われる懸念がある。
トランプ、クリントン両氏の対日政策を比較すると、やはり日本への悪影響が大きいのはトランプ氏の方だ。予備選を勝ち抜き本選に進めばトランプ氏も変わるとの見方もあるが、「本選になっても中道に修正するのは難しいのではないか」(足立正彦・住友商事グローバルリサーチシニアアナリスト)とみる向きもある。