外国人CFOの暴走で
人事部長が窮地に

 W社の例では、整理解雇の4要件は、かなりの程度、満たした状況であった。「人員整理を行うことの経営上の相当程度の必要性」、「人員整理を回避するための努力義務の履行」の2要件もほぼ満たしている。しかし、結局、解雇は実施しなかった。そのかわり、解雇よりは穏当と言える、会社都合退職者を募る退職勧奨のプロセスを実施した。退職勧奨のプロセスを進めるにあたっても、4要件のうちの残る2要件である、「対象者選定の合理性」と、「手続きの妥当性」が図られるように努めた。

 回避努力義務の履行にあたっては、退職勧奨は最後の手段と位置付けて、新規採用の抑制、契約社員・派遣社員の削減、オフィススペースの削減を含むコスト削減、そして、配置転換を可能な限り実施した。

 しかし、ここで思わぬ障害に直面する。グローバル本社から出向していたCFOが、日本法人の財務・経理部門の新規採用を断行するというのだ。W社では、財務・経理部門のレポートラインは、日本法人CFOが日本法人CEOへレポートする形となっておらず、日本法人CFOはグローバル本社のCFOへレポートするラインになっている。一方、グローバル本社からの人員削減指示は、営業部門に対してのみである。回避努力義務の履行は、営業部門に対してのみ課されると解釈できるので、日本法人の財務・経理部門においては、新規採用を行うというものだ。

 人事部長は、断固として反対した。レポートラインがグローバル本社CFOだったとしても、日本法人の財務・経理部門のメンバーは、日本法人に雇用されている従業員である。日本法人の業績がかんばしくないのだから、全社で新規採用は抑制し、配置転換の努力をすべきだ。ベストな人事ではないかもしれないが、財務・経理部門で人員が必要であれば、今回、退職勧奨の対象となるかもしれない人員の中から、ベターな人材を異動配置することを検討すべきではないかと主張した。

 日本法人CFOのリアクションは、「新規採用をしてはならないということは、法律で定められているのか」というものだった。人事部長は答えた。「法律で定められているのではありません。あなたはグローバルレポートライン下の日本法人CFOですが、同時に日本法人という一企業の経営陣として、重要な一角を担う立場でもある。私はこの状況で新規採用をしようとする経営判断に疑義を申し立てているのです」と。

 営業部門が人員削減をしなければならないタイミングで、財務・経理部門が新規採用を実施したら、日本法人全体ではなく財務・経理部門の利益を重視するCFOに対して、従業員はNOを突き付けるに違いないと説明を尽くした。

 その説明は効を奏しなかった。それどころか、日本法人CFOはグローバル人事に泣きつき、グローバル人事は日本法人CFOに加勢した。「法律で禁じられていないことに対して、なぜ抵抗するのだ。日本法人CFOの経営判断を尊重せよ」と、日本法人の人事部長へ指示がきた。