日本経済新聞10年7月16日付の朝刊「大機小機」に、「人口動態デフレ論」というタイトルのコラムが掲載されていた。かなりユニークな内容だったので、スクラップ記事にした読者も多いと推測している。

 そのコラムでは人口動態デフレ論を「データ分析の裏付けに乏しい」と批判していた。科学的な根拠がないにもかかわらず支持する人が多い点では、「血液型占い」に似ているのかもしれない。

 しかし、それに対峙するマクロ経済学も、現状のデフレ不況に有効な処方箋を呈示できていないのだから、人口動態デフレ論とは五十歩百歩といえるだろう。

 筆者は、マクロ経済学については「時間があれば話を伺いましょう」といった程度の興味しかない。栃木の山奥で中小企業経営者を相手にしている者にとって、天下国家の経済政策論議など、メシの種にならないからである。

 筆者の専門分野(管理会計・原価計算・経営分析など)の源流は、ミクロ経済学のほうにあるので、それに関連した書籍を読むことが多い。ミクロ経済学は、企業の経営戦略に通じるものが数多くあるからだ。

抽象的概念の多いミクロ経済学を
企業行動に適用することができるか

 そのミクロ経済学は近年、ゲーム理論や行動経済学にばかりスポットライトが当てられている。例えば、カルテルや談合などで独占禁止法違反に問われても、違反行為を自主申告した企業については課徴金が減免される。06年1月から始まったこの制度は、ゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」を、企業行動に適用したものとして有名だ。

「実務に役立たない」と揶揄されてきた学問が、実務の世界で活用されるのは喜ぶべきことだろう。しかし、ミクロ経済学の前半に登場する、企業行動論(完全競争市場&独占的競争)や消費者行動論が、相変わらず観念的説明に終始し、「データ分析の裏付けに乏しい」のは、学問としての怠慢であるといえる。

 マクロ経済学が政府や日銀などの統計データを活用しているのに比べると、ミクロ経済学は抽象的概念が多すぎて、人口動態デフレ論の足許にさえ及ばない体たらくだ。しかし、それもやむを得ないといえるだろう。学問の府に棲む人々は、有価証券報告書や法人税申告書などの作成実務を知らずに、企業行動を論じているのであるから、同情の余地はある。

 しかし、それも度が過ぎれば迷惑な話になる。国際会計基準IFRSの導入が進むにつれ、上場企業の中には250%定率法という税法の特典を放棄して、新定額法へ「転向」していく企業が現れる可能性が高い。国全体のマクロ統計でみれば、減価償却費の減少に繋がることから、「ニッポンの上場企業は増益傾向にあるが、設備投資意欲は減退している」などといった的外れな経済論文が今後、登場するかもしれない。

 そこで今回は(別に経済学の発展に貢献するつもりはないが)、古今東西、高名な経済学者でさえ論じたことのない、「データ分析の裏付け」を持ったミクロ経済学の話を展開してみることにしよう。