『一流の育て方』は、ビジネスに応用できる

高宮『一流の育て方』が示している子育て法は、実際の子育てだけではなくビジネスにも通ずる要素が満載でした。投資先の起業家への接し方として心がけていることがまさに書いてあって、正直驚きましたよ。

ムーギー ありがとうございます。たしかに本書は、子育てに悩むお母さんからだけでなく「ビジネスでの社員教育にも役立った」といった読者の声もたくさんいただいているんです。とくにどういったところが共通点として挙げられますか?

高宮 投資先のベンチャー企業に対して、資金を供給するだけではなく、社外役員として経営者の壁打ち相手になって支援しています。そのとき、僕が心得ていることが3つあるんですね。

ムーギー ほう。

高宮 1つめが、「複眼的な視点を提供する」です。「こういう見方もあるし、こういう風にも見える」、「この業界ではこうなっているが、あっちの業界ではこうなっている」、「なので自社として取りえる打ち手は3つあると思う」と選択肢を並べて、「個人的には3番の案がいいと思うけど、どう思う?」と問う。もちろん、最後に決めるのは起業家本人ですが。

ムーギー 視野を広げるために、起業家だけでは思いつかないような選択肢を出す。これって、高宮さんがお父さんから受けた、いろんなものを見せて、いろんな機会を提供してくれる教育とまったく同じですね。

高宮 そうなんです。しかも2つめのポイントは、さらに親の気持ちと近くて。起業家がなにかにチャレンジするとき、「経験的にそっちに行ったらやばい、転ぶ」って思うことがあるんですよ。でも、彼らが「絶対にこっち!」と言うときには、「じゃあ、やってみよう」と言うしかない。そのかわり、転んだときのケガが致命傷にならないように、早く立ち上がれるように、プランBを先回りして用意しておく。そして、事後的には、同じ過ちを繰り返さないように、一緒に振りかえりをするように心がけています。

ムーギー それも、親心そのものですね(笑)。

高宮 3つ目は、「最後は信じて任せる」ということ。ベンチャー投資って外部環境がどんどん変わるんですよ。だから、戦略もプランも変わるのは当たり前で。

ムーギー ええ、わかります。

高宮 でも、ただひとつだけ、固定されている要素がある。それが起業家です。僕たちVCは、起業者に賭けているんです。だから、最後は信じて任せます。僕はどちらかというと芸風がオカンなので、つい「ティッシュもった?ハンカチは?」と言ってします。でも、起業家が腹に落ちたことをやりたいといったら、背中を押すのが仕事だと思っています。

ムーギー うーん、3つとも『一流の育て方』に書いてあるとおりで驚いています(笑)。子育ても、ビジネスでの人材育成も、根っこのところでは本質的に同じだと。

高宮 そうだと思います。あと、親もVCも「いつかいなくなる存在」だということも共通しています。投資家は将来的には、どこかタイミングでその会社の株式を売却しなければいけない。そうするといなくわけですから、必要不可欠なパーツになっちゃいけない。最初に仕組化したり、ノウハウ移転するところはがっつり一緒にやります。でも、会社の中の重要なパーツになってはいけない。

ムーギー それって、つまり「自立させること」ですよね。子育てもVCも、いつかお互いに親離れ子離れする関係だ、と。

高宮 そうですね。ただ、子育てと似ているとはいっても、じつは僕、あまり起業家を「育てている」感覚はないんです。

ムーギー 対等なパートナーシップを築いている?

高宮対等どころか、起業家のほうが尊いと思っています。ファイナンスや戦略は、どちらかというと秀才タイプが後天的に学習することができる、ある意味コモディティだと思っています。起業家のようにゼロからイチを生み出すほうが、希有な才能だし、より社会的な価値を生み出しているんですよ。それは、コンサルタント時代に経営者と仕事をしているときから、ずっと思っていました。

 だから、「同じ舟に乗せてくれてありがとう」という感覚なんですよ。同じ舟に乗っている以上タダ飯を食うわけにはいかないから、僕もがんばります。そして、同じ舟に乗せてもらうことで、僕らも起業家から学ぶことも多いです。

ムーギー なるほど。