今の仕事は、自分が「本当にやりたいこと」か?
高宮 『一流の育て方』で、自分のやりたいことを見つけてやりきるのが幸せだという記述がありましたよね。社会的な成功は幸せとは無関係で、やりたいことに情熱を持って取り組めること自体が幸せだ、そこを追求すれば結果はついてくるものだ、と。これも、そのとおりだなと思って。
パートナー/Chief Strategy Officer グロービス・キャピタル・パートナーズ
グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)ではコンシューマー・インターネット領域の投資を担当。投資先に対してハンズ・オンでの戦略策定、経営の仕組化、組織造り、国内外の事業開発の支援を実施。 GCP参画前は、アーサー・D・リトルにて、戦略コンサルティングプロジェクトを主導。東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学経営大学院MBA(二年次優秀賞)。投資支援先は、アイスタイル(東証3660)、オークファン(東証3674)、カヤック(東証3904)、ピクスタ(東証 3416)、しまうまプリントシステム(CCCグループ入り)、ナナピ(KDDIグループ入り)、ランサーズ、メルカリ、ビーバー、ツクルバなどがある。
ムーギー 世の中で「いい」と評価されていることをがんばると、ラットレース(過当競争)になってしまいます。それでは、幸せになることは難しい。自分がやりたいことを追求するからこそ、自己肯定感を得られます。成功と幸せは、その先にしかありません。
高宮 そのとおりですね。僕は、「自分は何がしたいか」といった自分なりの価値観を見つけられたとき、ようやく心の底から自分を好きになれたような気がします。それこそ、帰国子女のコンプレックスが昇華されたというか。
ムーギー なるほど。ラットレースから抜け出て、やりたいことを見つけられたきっかけは何かあるんですか?
高宮 MBAに行ったときに、自分のカンフォートゾーン(安全と感じやりやすい領域)を抜けだし、自分にストレッチをかけて見たことですね。まず、僕はナナロク世代(76年生まれ世代)なので、大学時代にネットバブルまっただ中だったんです。だから、周りのおもしろいやつはみんなインターネットに注目していたし、おもしろいやつほど起業していた。隣のゼミには、mixi創業者の笠原さんがいましたしね。そんな環境だったので自然と「自分も起業したい!」と思っていたのですが、そこで僕は「経営ってなんだろう?自分に経営ができるのか?」と思い悩んでしまったんです。それで、コンサルティングファームに行けば経営ができるようになるんじゃないかと考えた。
ムーギー 経営者になるための修行に出たわけですね。修行はいかがでしたか?
高宮 20代の若造が業界上位大企業の社長にプレゼンする機会を得られたりして、やりがいはありました。ただ、その楽しさに流されて、自分がやりたいことという「絶対軸」じゃなく、周りに評価される「相対軸」に乗っかってしまった。気づいたら入社してから6年が過ぎていて、「あれ、自分がやりたいことってこれだっけ?」とふと立ち止まったんです。そこで、MBA留学中に学生というある意味モラトリアム的なタイミングで、「できる・できない」で判断せずに、「やってみたい」に思い切って振り切ってみようと思いました。
ムーギー そこで自分の「絶対軸」に乗り換えたんですね。
高宮 「絶対軸」を手に入れたのは、やってみたい軸だけで動いてみたMBAでの2年間があったからこそです。起業も、デザインもバックグラウンドがない。でも、そんなことは全部無視して、アメリカのデザインファームと提携して、日本でデザインファームを起業しようとしました。学生という稼がなくてもよいという、社会人としては味噌っかす的な位置づけ生かして、いろいろと「無理目」に振り切ってみたんです。すると、「やればできる」という部分と、「これはストレッチしすぎだな」という部分がわかってきたし、自分の価値を発揮できるスキルの掛け合わせも見えてきました。
ムーギー 踏み出してみたからこそ、わかることがあった。
高宮 ええ。やりたい方向が定まったら、仮説に基づいて走りながら軌道修正していけばいいんですよね。カクカク曲がってジグザグに多少回り道しても良い、大きく見て正しい方向に向かっていればいいんだと考えられるようになりました。起業は一発必中って思いがちじゃないですか。
ムーギー ああ、そうですね。「1回失敗するとアウト」みたいな雰囲気もありますし。
高宮 でも、自分の経験から、起業もキャリアも大まかな方向が合っていればいいんじゃないかと思うようになりました。そのためには、少しでも好きだ、やってみたいということがあればその方向に進んでみる。やってみてその仮説が違ったら、軌道修正すれば良い。少しでも好きだと思う方向に進んでいれば、本当に好きなことの要素は含まれているはずで、違った点だけ修正していけば、仮説の精度はどんどん上がっていき、本当にやりたかったことのど真ん中に近づいていく。結果的に、自分の「絶対軸」で判断していることになるんだなぁと実感しています。