2016年の参院選の結果は、自民党を中心とする与党勢力が過半数を超え、さらには実質的な勝敗ラインと言われていた「改憲勢力で3分の2以上」の議席も獲得した。憲法改正への足場を固めた安倍首相は今後、どのような動きをみせるのか? 政界の動向に詳しいジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。
本当に「自民の圧勝」だったのか?
自民単独過半数は辛勝だった
7月11日に投開票が行われた参議院議員選挙では、改選議席121のうち、自民・公明の与党が61議席を獲得。安倍首相が勝敗ラインに掲げた「自公での過半数」を達成し、さらには「改憲勢力で3分の2」も上回った。多くのメディアが「自民の圧勝」を報じたが、「一概に大勝とは言い切れない」と鈴木氏は言う。
「確かに、今回の参院選で与党は、非改選と改選を合わせて議席の過半数を取ることができました。しかし、それはあくまでも『自民・公明連立』での過半数であり、自民党単独で参院の過半数を押さえたわけではありません。もし、単独過半数を目指すのであれば、自民は57議席取る必要がありましたが、今回の獲得議席は56でそこまで行かず、非改選の無所属議員を引き込んで、かろうじて単独過半数にしました。そういう意味では辛勝です」
56議席止まりだったら、法案を通すためには、今後も連立している公明党の承認を得なければならなかった。つまり法案によっては、公明党に気を遣い譲歩せざるを得ない状況が続いたのだ。ところがその後、13日になって元復興相で無所属の平野達男氏が自民党に入党届を提出したため、参院選とは関係なく、タナボタでもう1議席が手に入った格好に過ぎない。
また、各メディアが大々的に報じた「改憲勢力で3分の2獲得」という見方にも落とし穴があるという。
「今回の選挙で非改選議席を含め、憲法改正に前向きな勢力が3分の2を上回る結果となりました。参院選では憲法改正に前向きな3つの政党(自民党・公明党・おおさか維新の会)で77議席を獲得しましたが、実はこれだけでは改憲勢力で3分の2以上にはなりませんでした。3つの政党の他、今回入党した非改選議員、そしてほかの無所属の議員3人を含めて『改憲勢力で3分の2以上』になったのです」
無所属の議員などは党則で縛られることもないため、今後、世論の風で主義主張が変節する可能性も高い。つまり、あくまでも「現時点では」という注釈つきで「ぎりぎり改憲勢力で3分の2を上回っている」といった表現が的確だろう。
「さらに、選挙区の1人区で11議席も落としてしまったのが、自民党にとってはネック。私が話を聞いた自民党幹部の多くが、次の衆院選でも野党共闘で地方を攻め落とされる可能性を考え、おごらず警戒しなければならないと言っていました。なんにせよ、今回の参院選の勝敗ラインは複雑で、一元的に『勝った負けた』とは言い切れないかもしれません」