スマートフォン(スマホ)市場の飽和を前に、TDKが主力事業の転換を迫られている。次に目指す姿は何か。6月28日付で就任した、石黒成直社長(58歳)に聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 村井令二)

いしぐろ・しげなお/1957年生まれ。東京都出身。81年北海道大学理学部中退、82年東京電気化学工業(現TDK)入社。2012年からヘッド事業のゼネラルマネジャーとして香港駐在。14年執行役員、15年常務執行役員を経て、16年6月より現職。
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──前任の上釜健宏会長はハードディスク駆動装置(HDD)用の磁気ヘッドに依存した収益体質を転換してスマホ向け部品にシフトしてきましたが、そのスマホ市場が飽和を迎えようとしています。

 私は社長就任の直前までHDD用磁気ヘッド事業を担当していましたが、ヘッド事業が全社の収益をけん引していた2009年ごろから、この技術を次世代の製品に応用するプロジェクトを始めていました。もともと私は、TDKが撤退したカセットテープ(磁気テープ)事業を担当し、一つの事業を丸ごと失う経験をしました。どんな事業も永遠には続かない。プロジェクトはたった3人で始まりましたが、10年ごろには、ヘッドの読み込み素子(TMR素子)が自動車の角度をセンシングする磁気センサーに応用できると気付いて、Tier1メーカーと共同開発を始めました。

 5年を経て、自動車用部品としてやっと承認を取得し、15年からTMRセンサーの少量生産を始めています。今では40社から引き合いがあり、年内にはHDDヘッドの主力拠点の浅間テクノ工場(長野県佐久市)で本格量産します。生産設備を転用できるので投資額は数十億円で済む。2年くらいでセンサー専用工場に転換します。

──今年3月には車載用センサー会社、スイスのミクロナスの買収を完了しました。

 TDKは、TMR素子の技術は持っているが、センサーの応用は経験がない。車載用のホール素子センサーを手掛けているミクロナスを取り込めば、センサーの一貫生産ができるので、シナジーは必ず生まれると確信して、昨年6月ごろに買収を申し入れました。最初はなかなか面談に応じてくれなかったものの、9月に初めてミクロナスのマティアス・ボップ最高経営責任者(CEO)と会えました。すでに統合メリットは理解してもらっていたので、わずか3カ月で条件交渉を終え、12月17日には契約を結ぶことができました。

──ミクロナス買収で、センサー事業はどこまで伸ばしますか。

 磁気センサー事業は始まったばかりで、今の売り上げ規模はミクロナスを入れても300億~400億円。車載用だけではなく、産業用にもロボット用にも使えるので、いろいろな用途に広げて、磁気センサーに限らず、センサー全体で20年度に2000億円の規模まで目指します。特にセンサーは私自身が関わってきた事業なので、大きく伸ばしたい。