それは不思議な映像だった――。無造作に積みあげられた人骨の数々。頭骨。手足の骨。全部で200人分はあるだろうか。その骨の山に男が油をかけて回る。すぐさま火が放たれた。バチバチという炎がはじける音。1人の女性がトランペットを取り出して、「君が代」のメロディを吹き始める…。
これは、フィリピンで日本政府が進めている戦没者の遺骨収集事業の1コマ。日本兵のものとされる遺骨の焼骨式の映像だ。
しかしいま、この事業に大きな“疑惑”が持ち上がっている。日本兵とされる骨の中に、大量のフィリピン人の骨が混じっている可能性が高いというのだ。
太平洋戦争中、海外で亡くなった日本人は240万人にものぼる。そのうちまだ114万人の遺骨が見つかっていない。戦後65年たったいま、日本政府は硫黄島をはじめ、各地で遺骨収集事業を積極的に推し進めている。
集められた遺骨の大半は身元不明。その場合は焼いて灰にして日本へ持ち帰り、千鳥ヶ淵にある戦没者墓苑に納めることになる。今年もまた、戦没者への慰霊が厳粛に執り行なわれ、多くの遺族が祈りをささげていた。その祈りの先にあるのは、本当に日本兵の遺骨なのか…。
日本兵の遺骨をめぐる
ボーンビジネス?
私たちがこの問題を追跡するきっかけになったのは、「フィリピン人の遺骨が日本兵の遺骨に含まれている」という疑惑を指摘する1人の遺族との出会いからだった。
静岡県浜松市に住む亀井亘(わたる)さん、67歳。フィリピン戦没者遺族会の副会長を務めている。父親の正美(まさみ)さんの遺骨を探すために、フィリピン各地を100回近く訪ねてきたという。その亀井さんが、2年ほど前から、フィリピン人の遺骨が盗まれ日本兵の遺骨として売られているという話を、現地で聞くようになったという。
「ボーンビジネスみたいになっているよ、という話を友達から聞きました。つまり、日本兵の骨と偽ってフィリピン人の骨を売り買いしている。現地でそういう話をいろんな人から聞いたもんですからね。いやこれは変なことをやりだしたなって思いました。もう戦没者を愚弄した行いですよ。こんなことで戦没者は喜びませんからね」
日本兵の遺骨を巡って一体何が起きているのか。現地で真相を追跡することにした。
9月初旬。追跡チームはフィリピン・ルソン島北部の村に向かった。そこで「遺骨の盗難騒動」が起きているという。首都マニラから車で走ること15時間。深い山間に、目的地「ワンワン村」はあった。
そこは、人口900人の小さな村。去年から、墓が荒らされ遺骨が盗まれるという事態が続発していた。村の長老の1人、75歳の男性も先祖の墓から遺骨を持ち去られたという。村では山中に作った「ほこら」に遺骨を納め、家族の守り神にしているのだが、去年の暮れ、盗難が起きているという噂を聞いた男性が墓に駆けつけたときには、既に遺骨は盗まれた後だったそうだ。
「先祖代々守ってきた墓なのに。誰がこんなひどいことをするのでしょう」
その男性は、荒らされた墓を見るたびに悲しみで涙がとまらないと語った。
さらに、ワンワン村の村長にも事情を聞くことにした。この1年で100体近くの遺骨が村周辺の墓から持ち去られているという。村長はさらにこう語った。
「隣村の連中が骨を掘り出しているという話があったので、『彼らが犯人じゃないか』と疑ったのです。そこで隣村の村長を問いただすと、『盗んではいないが、掘り出した骨はすべて日本のグループに渡した』と言っていた」