「部下の指導はしっかりやっている」と主張する上司。実際にいろいろと指示はしているのだが、実態は「指導が空回り」していることが多い。「空回り指導」に陥らず、部下がついてくる指導方法とは?
部長から、「君は部下の指導をちゃんとやっているのか?」と厳しく言われて、落ち込んでいた課長職にある松本義男さん(仮名・40歳)からの相談がありました。
松本さんとしては、5人の部下の面倒をよく見て指導していたのですが、部下はなかなか自分から動こうとはしないというのです。それを部長に指摘されたわけです。
顧客に二度三度と訪問し粘り強く営業してほしいと思っても、部下は目標に対する貪欲さに欠けて、すぐ諦めてしまうのだそうです。松本さんがガミガミとうるさく言って部下はようやく腰をあげるといった具合だそうです。
わたしは松本さんに「指導が空回りしていますね」とズバリ言いました。
松本さんは不服そうな顔をして、いったい自分のどこが悪いのだという口ぶりでこう言い返しました。以下がわたしと松本さんのやりとりです。
松本さん:「そう言いますけど、部下の報告はしっかり聞いて問題点があったら、そこで具体的にどうすればよいかを細かく教えています」
わたし:「なるほど。しかし、あなたの部下は貪欲さに欠けて、ヤル気がないのでしょう」
松本さん:「まあ、そうです」
わたし:「だから、それを空回りの指導だと申し上げているのです」
ここまで言うと、松本さんの不満げな表情は消えて、何を言いたいのだろうと興味を持ったようでした。
怒る前にやるべき方針を
上司は示しているか?
「つまり、効果が感じられない部下への指導は、空回りです。いくら正しくて立派なことを部下に話しても、教えても、部下が上司についてこなければ何もならないのです」
こう切り出して、わたしは指導についての本質的な考え方を話しました。
まず、指導には、『指』の意味するところと、『導』の意味するところがあり、それぞれにやるべき行動が違います。『指』は指し示すこと、『導』は導くことなのです。
指導の『指』とは指し示すことですが、そこには様々な指し示す内容があります。ところがそれを怠って、指し示すべきことを示さないで、突然これができていないじゃないかといっても、部下は面食らうわけです。
上司はこんなことは言わなくてもやるのが常識だろうとイライラし、『やる気のない奴だ』と部下に対して不満でいっぱいになります。
部下は口答えをしてまで反発することは少ないので、上司は部下の感情を捉えていませんが、部下の心の中では上司に「そんなことは聞いてない。怒る前にやるべき方針を示してくれよ」とたいがいは思っています。
ですからしぶしぶ動き始めますが、うまくいくはずがありません。「上司は無理なことを言う人だ」とヤル気が落ちて、できない理由を探し言い訳をするのです。
示すべき内容は多岐にわたりますが、要約すると4項目に集約されます。それは目標、任務、手順、価値観です。
目標はうるさく言っても、部下の意識が低ければ上司の言葉は雑音にしか聞こえません。貪欲な目標意識は、高い価値観から出発した高い意識があって可能となるのです。
次の回では、示すべき4項目について触れたいと思います。