チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相によれば、チベット自治区ではいま静かにチベット仏教が復活しつつあるという。中国はチベット仏教寺院の95%を破壊しておきながら、海外の仏教とは手厚く歓待している。そこには仏教すらもしたたかに「利用」しようとする中国の戦略がある。人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。
復活しつつあるチベット仏教――センゲ氏との対話
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、『日本の未来』(新潮社)など多数。
チベット亡命政府首相、ロブサン・センゲ氏の話は思いがけない内容だった。チベット、つまり、中国に併合され土地も資源も奪われて今日に至るチベット自治区では、漢民族に破壊された寺院の修復が進みチベット仏教が静かに着実に復活しつつあるというのだ。
センゲ氏は2016年1月9日から13日まで、首相として2度目の訪日を果たしたが、状況の苦しさとは対照的に意気盛んだった。
「年間、2000人から3000人のチベット人が中国から私たちのいる北部インド、ダラムサラの亡命政府の下に逃れてきます。僧、尼僧、一般のチベット人など、さまざまです。私たちは彼らを迎え、僧にはチベット仏教をより深く教え、世俗の人々にも同様にチベットの文化、伝統、価値観を教えます。彼らはダラムサラでチベット人であることの意味を深く体得すると思います。こうしてチベット人の自覚を深めた彼らがまた中国に戻っていくのです」
なぜ戻るのか。逮捕されれば長い長い拷問の日々、苦しみ、最悪の場合、死が待ち受けているというのに。
センゲ氏が答えた。
「漢民族はチベット仏教の寺院の95%、6000寺余りを破壊し尽くしました。残された寺院は毛沢東語録の学びの場とされ、監視カメラが設置されています。漢人がチベット人の心の支えであるチベット仏教を破壊し続けている現状に立ち向かうために、ダラムサラから中国に戻ったチベット人は寺の再建に取り組むのです」