経営×統計学

統計学を武器に事業を伸ばすデータ解析ビジネス最前線(1)

スポーツ

女子バレー、野球……
統計分析を駆使したチームづくり

 28年ぶりの銅メダル獲得。昨年7~8月のロンドン五輪で、全日本女子バレーボールチームが快挙を成し遂げたことは記憶に新しい。

 その偉業もさることながら、それと同様に人々の目に焼き付いた光景がある。眞鍋政義監督がタブレット型端末、iPadをコートに持ち込んで、指示を飛ばしていた様子だ(写真)。画面には自チーム、相手チームに関する分析データが映っていた。

iPad片手に選手へ呼びかける姿は、今や眞鍋監督の代名詞だ。選手の経験や勘とデータを結びつける。Photo:日刊スポーツ/アフロ
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 そんな「データバレーの勝利」の立役者として、一躍時の人となったのが、全日本女子バレーのデータアナリスト、渡辺啓太氏だ。

 竹下選手がジャンプフローターサーブをコートの右端から左奥へ打つ。相手の10番が正確にレシーブ。それをセッターがライトの選手にトスしてアタック。荒木選手がブロックでタッチ──。

 渡辺氏は試合中、コート近くのスカウティングエリア(統計席)で、こんな目まぐるしいプレーの応酬を一つひとつコード化。世界標準となっている、イタリア製の分析ソフトに打ち込み続ける。その情報が眞鍋監督のiPadにリアルタイムで届くのだ。

 バレーボールは試合時間が2時間あっても、じつはボールが動いていない時間が1時間もあるという。「その時間に何ができるのかが非常に重要」だと、渡辺氏はデータアナリストの重要性を語る。

 また、どんな画期的な分析ができても、それを適切なアクションにつなげられなければ意味がない。そこで分析結果の伝え方を工夫することにも力を注いでいる。2010年春、眞鍋監督から「アタックした際の失点をいくつに抑えれば勝てるのか」という分析オーダーが来た。弾き出された答えは、「全アタックのうち、失点するケースを6%に抑える」というもの。しかし、選手たちが“6%”と聞いても、必死にプレーしている試合中に意識することは難しい。

 そこで、伝え方をこう変えた。「アタックのミスによる失点を2点、ブロックされたことによる失点を2点。1セットで合計4失点までに抑える」。これで、とたんに意識しやすくなったのだ。ときには若い選手に対して、恋愛の例え話まで持ち出して伝える工夫をしているという。

 スポーツ界では近年、統計学を活用したチームづくりにも注目が集まっている。それを加速させたのが11年公開の映画「マネーボール」。かつてメジャーリーグの貧乏弱小球団だったオークランド・アスレチックスが、「セイバーメトリクス」と呼ばれる統計手法を駆使して、強いチームをつくり上げるという実話を基にした映画だ。

 チームの勝率を上げる要因を統計的に分析し、出塁率や長打率、選球眼といった、それまで選手の評価指標として重要視されていなかったデータを基に選手の起用や獲得を決定。金満強豪球団と張り合えるチームをつくり上げたのだ。

 そんなアスレチックスの成功もあり、データの活用が浸透してきた日本球界で、積極的な姿勢を見せる球団の一つが福岡ソフトバンクホークスだ。IT企業ソフトバンクの社長、孫正義氏がオーナーだという影響も大きい。

 将来的には詳細な動作解析が可能な設備を整えて、「優秀なスカウトやコーチにしかわからない、ピッチャーの直球の“ノビ”や変化球の“キレ”といった言い回しや、ケガ明けの選手の動きがケガ前とどう違うかなどを科学的に解明したい」。ホークスの経営企画と育成、チーム運営を担当する三笠杉彦次長は、そう構想を明かす。

 「監督も選手も変わっていく中で、長期ビジョンで強くなっていくには、球団に蓄積されていくノウハウが必要」(三笠次長)。そのために統計分析を活用しようというわけだ。

 統計学の力でチームを強化しようとするとき、必要不可欠なのが、詳細なデータだ。スポーツの世界でそれを提供している企業の一社が、データスタジアムだ。主に野球とサッカーの情報がビジネスの根幹で、ホークスも同社のデータ利用者の一つだ。その情報を「選手の年俸査定に利用している」(プロ野球関係者)チームもある。

 データスタジアム自身が統計分析をし、メディアなどに提供するケースもある。サッカーでは、あるプレイヤーが出場することで、どれほど得点に寄与しているかを示す「得点期待値」という指標を出している。

 また、「最近はスポーツ統計の研究者も増えていて、教育分野へのデータ提供もやっている」と、データスタジアムの加藤善彦社長は話す。スポーツの分野でも“産学連携”がさらに進めば、驚くべき統計分析の活用を見られる日がやって来るかもしれない。

 しかし、スポーツに対して統計的なアプローチをする人々すらも、「スポーツの醍醐味は“不確実性”」と口を揃える。

 どのチーム、選手が勝つかわからない。その中で勝利の可能性を高める分析を行う。けれども、その分析結果を打ち破る“奇跡”をチームや選手が起こす。

 こうした切磋琢磨が、スポーツの世界にも統計学の世界にも、革命を起こしていくのかもしれない。

「経営×統計学」



週刊ダイヤモンド編集部


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