この世にはびこるウソを数字や統計を使い、ぶった切る! 俗説バスター統山計子参上! 数字や統計を使って“見抜く”力がなぜ必要になるのか。統山家を通して理解してみよう。

「ふあ~あ。おはよう……」

 大学卒業後、就職に失敗して派遣社員に。最近は家に引きこもりがちでネットばかり見ている。絵に描いたようなニート。それが統山計子の弟、統山圭だ。

 「あら、圭ちゃん、今日は早いのね」。母親の問いかけに対して、面倒くさそうに圭が答える。「まあね。ニートもたまには早く起きなきゃね。というか、朝まで起きていただけだけど」。

 もう28歳になる圭は統山一家の悩みの種だ。今の境遇はすべて社会のせいだとふてくされている。「そろそろ就職したらどうだ?」と心配する父。「あのね、父さんの時代と違うんだよ。今は氷河期で就職できる学生の数が少ないの。んでもって、俺らの就職の時は、非正規雇用が増えて就職する学生数が減ったの! 大変なのっ!」。

 就職氷河期で正社員は減り派遣社員が増え、しわ寄せは若者に……。半ば常識のように語られることだ。しかし、計子はデータに裏打ちされた事実以外は信じない。飲んでいた牛乳瓶を机にたたき付けて立ち上がった。

 「あ~! もう、ほっ統計(とけ)ない!」

 「ひっ」と、のけぞる圭に対して、計子がまくし立てる。

 「あのねえ、就職する学生の“数”は減っていないの。大学を作り過ぎて学生の数が増えたから“率”が下がっただけなのよ! それに、正社員の比率も下がってないわ!」

 実は、計子の言うように企業に就職する大学卒業者の数は減っていない。景気の変動により上下するものの、近年はバブル期の年平均約30万人を大きく上回る水準の年がほとんどだ。

 一方でバブル期に比べて大学数は7割増、学生数は6割増と採用数以上に膨れ上がっている。だから、就職“率”が悪くなるのは企業側の問題だけでなく、大学乱立も大きく影響している。さらに、非正規雇用の増加が指摘されるが、生産年齢人口当たりの正社員比率は減っていない(図1‐1)。

 「率で見るか、実数で見るかによって印象が激変するのよ」「う、うん。あ、姉ちゃん、もう8時過ぎているよ!」「ぎゃー! 遅刻!」

 走り去る計子に向かって圭は「姉ちゃん! 俺、働くよ」と決意の叫びを投げかけるのだった。