黒田日銀総裁の記者会見に出席し「この人はやっぱり大蔵省の人」とつくづく思った。市場は政策でなんとでもなる、と思っているのが大蔵官僚の特徴だった。財政・税政を握り、権力で経済は動かせるという自負心で彼らは失敗した。

 市場は権力の都合では動かない。物価上昇は目標に届かず、株は上がらず、為替も円高に振れる。それでも黒田総裁はまだ「なんとかなる」と思っているようだ。経済対策を練る首相側近も似たような感覚のようだ。総事業費28兆円。大型景気対策を打てば、株価が上がると信じているのか。

 市場の反応は真逆だった。国債は売られ、長期金利が急上昇した。市場は、金融と財政が「緩む」ことを期待しながら、「非常識はいつまでも続かない」と心配する。満ちる月はやがて欠ける。投資家は「この先」を恐れている。

 第4次金融緩和と28兆円経済対策が並んだタイミングで起きた異変は、動揺する投資家心理を映し出ている。市場のシグナルは「国債バブル終焉の予兆」と受け止めるべきだろう。

国債価格・金利に異変
お上が支える歪んだ市場

 4次緩和を決めた日銀の金融政策決定会合は29日金曜日。決定が伝わると株価は乱高下した。「国債買い入れ増額なし、マイナス金利の深堀りもなし」。期待外れの内容に売りが殺到。日経平均は大きく値を下げた。ところが、予想外の「ETFの買い入れ倍増」が伝えられると、株の買い戻しが起こった。ジェットコースターのような値動きに株式市場は湧いたが、不気味な動きは週明けの債券相場で始まった。

 日銀のマイナス金利で、どんどん下がっていた長期金利(指標になる10年国債の流通利回り)が上昇に転じたのである(国債価格は下落)。「期待した国債買い入れ増額がなかったことの反動」と見られたが、その程度では止まらず、売りが売りを呼んだ。決定会合の前日には-0.29%まで下がっていた金利が、経済対策が発表された2日には0.06%まで上がったのである。

 市場関係者に聞くと「株に例えれば2日で日経平均が1000円下がったような衝撃」という。

 英国がEUからの離脱を決め危うさを増す世界で、日本国債は「安全資産」と見られていた。1000兆円を超える政府の借金で格付けは下がり、中国や韓国の国債よりランクが低い日本国債だが、世界の投資家の眼には「安定した投資先」に映る。

 日銀が年間80兆円の勢いで市場から買いまくり、円安も一服しているので国債は安定感がある。長期的に不安材料はあっても、短期的にはおカネの置き場として安心できる、というのだ。背景にあるのが日本国債を巡る特殊な事情だ。