「社長だし、簿記検定を受けたほうがいいのかな」。このような悩みを持つ経営者の方は意外に多くいらっしゃいます。

ところが、「社長に簿記検定はいらない」と断言するのは税理士の井ノ上陽一氏。

「経費」から「決算」まで、必要な知識が全部わかると評判の『新版 ひとり社長の経理の基本』の発行を記念して、「社長と簿記検定」の関係を語ってもらおう。

これが、
簿記検定の「使えない」問題

「勉強して、簿記検定を受けたほうがいいのでしょうか」

 こうした質問をよく受けます。結論としては「社長は簿記検定を受ける必要はありません」になります。実際私は、お客さまに「簿記検定をとって下さい」と言ったことはありません。

 もちろん、勉強して知識を身につけ、検定を受けるにこしたことはありません。しかし、もっと知るべきことはありますし、簿記検定にはムダな知識も多いのです。

簿記検定は、「あらゆる会社のあらゆる取引」を勉強しなければいけません。つまり、社長にとって必要のないことも多いのです。

 知識として仕入れるには最適ですが、「実際に使えるか」「会社の数字が読めるようになるか」というと必ずしもそうではありません。

 例えば、簿記検定では次のような問題が出ます。

(1)現金5万円を当座預金に預け入れた
⇒当座預金を使っていない会社の社長には必要ありません

(2)東京商店から商品10万円を仕入れ、その代金のうち半分は小切手を振り出して支払い、残りは来月末に支払うこととした
⇒仕入がない会社、小切手を使っていない会社には必要ありません。そもそも東京商店という架空の会社の事例を出されてもピンとこないでしょう

(3)大阪商店へ商品30万円を売り上げ、代金のうち10万円は同店振り出しの約束手形を受けとり、残りは来月末に約束手形で受けとることとした
⇒手形を使っていない会社には必要ありません。今や手形を使う会社はどんどん減っていますが、簿記検定の勉強としてはやらざるを得ないのです

「数字を読み、経営に活かす」という意味では、自分の会社の数字が一番勉強になります。

 ここまで「簿記検定を受ける必要はありません」とお伝えしてきましたが、たった1つ、おさえておいていただきたいことがあります。会社の取引は、2つの側面から表現できるということです。ポイントを絞って、お伝えします。