モメそうな会議をうまく収める
「会議の達人」がかつてはいた
世の中には、モメそうな会議を見事に収める技術を持つ「会議の達人」がいる。かつては大きな会社には、必ずといってよいほど、この手の調整に卓越した能力を示す人がいた。内容については完全に中立である。興味関心と達成すべきは、議事が前に進むことだけであり、私心のかけらもない。
昔、『Popeye』や『Hot Dog Press』などの男性向け雑誌には、「女性と一緒に座るときは、正面よりも横並びやL字のほうが親密になれる」「右脳に訴えかけるために、女性の左側に座ったほうがいい」などの、「近接心理学」を活用したモテ情報が書かれていた。「会議の達人」の手法はこれらを駆使する。
会議での席順は話の中身同等、場合によってはそれ以上に重要だ。喧嘩にならないよう、意見が対立する人たちを正面に座らせず、反対意見を出す(であろう)人たちが「マイノリティ」に見えるよう、適度に席を散らしておく。議題の順番も同様に重要だ。紛糾した議題のあとは誰もがイライラして、空気も重くなっている。すると、もともとモメそうな議題であれば、さらにモメる。そこで、直前の議題まで続けて、サクサク採決できるもので固めたほうがいい。これも、モテ情報の雑誌の類によく載っていたような話に近い。
会議の前にすることもある。一度反対派の急先鋒の意見をじっくりと聞いておくのだ。原始的なテクニックだが、二度同じテンションで激昂できる人はなかなかいない。言い分を聞いてやるだけでガス抜きになる。また、彼らも自分たちの意見がすべて通るなどとは思っていないから、10個聞いたら1個反映するくらいの割合でも、十分「自分たちのために動いてくれた」と感じるはずだ。推進派にしっかりと働きかけて一部を譲歩させる。すると、反対派もずいぶん溜飲が下がった状態で会議に臨むことになるし、会議の達人の顔を立てて、それほどの「大モメ」にはならないのである。
この手の調整が重要だと思っていない人は、反対意見を出させないようにして、いきなり採決を強行したりしてしまう。それによってその場では「勝った」気持ちになるかもしれないが、反対派の怒りは収まらない。しこりが残るのは確実だ。やはり、「会議の達人」は必要なのだ。