拙著『一体感が会社を潰す』の出版を契機に、ダイヤモンド・オンラインで連載『組織をむしばむ「子ども病」の正体』として5回にわたり組織の不健全な状況について書かせていただきました。幸い好評を博し、もっと多くの組織の問題について語ってほしいという要望をいただいたことから、本連載を始めることになりました。

組織は、ある目的のために集まった人たちによって成り立っているにもかかわらず、一度“病”にかかってしまうと、本来の目的を見失い、再起不能の状態へと陥ります。さらに恐ろしいのが、組織の中にいる人たちには、その“病”の正体が分からないどころか、自分たちが“病”にかかっていることすら気づけない点です。

この連載では、日本の組織の成長を阻害している厄介な「組織の病気」を、症例を挙げて紹介。多様な組織で共通に見られる不健全な状態と、それへの対応策について語っていきたいと思います。

初回のテーマとして取り上げるのは、M&Aによって生まれた会社の価値観の違いによる対立です。

物語に生きるA社、データで語るB社
M&Aで両社が一緒になったら…

 かなり前のことになるが、M&Aによって合併して生まれた某大企業である対立が起きた。きっかけは、新進気鋭のアーティストを使った新商品のコマーシャルフィルム(CF)である。

 映像は、忙しい日常から一転して爽やかな朝へ。元気な寝覚め、美しい笑顔、その傍らには新商品……。元A社の宣伝部長が「絶対の自信があります」と言っただけあって、なかなかのクオリティだ。

 しかし、CFを見た元B社の人達が気にしているのは、まったく違う部分だった。

「ところでこの商品の成分表示の○○っていうのは何? いくらで買ったの?」
 「○○の機能は、前の商品の何%アップ?」
 「商品名言わないと覚えてもらえないんじゃないの?」
 「このモデルさん誰?有名な人?想定ターゲットの認知率は何%」

 もともと商品の持つ世界観を重視してきた元A社の人間からすれば、元B社の人達の質問は的外れだ。