前回紹介した経済財政報告(以下「報告」と引用)では、人口構造の変化が資産運用に与える影響についても述べている。すなわち、「高年齢層のリスクに対する許容度は他の年齢層より相対的に高いので、高齢化によってリスク資産需要が低下する可能性は低い」としている。
このことは、実際のデータで確かめられるだろうか? つまり、「人口高齢化によって、資産運用におけるリスク選好が高まった」と言えるだろうか?
総務省「家計調査」によって年齢別の金融資産状況を見ると、【図表1】のとおりだ。
この表に見られるように、株式などのリスク資産が総資産に占める比率は、高齢者ほど高くなるのは事実である。
しかし、定期預金の比率も、高齢者ほど高くなっていることに注意が必要である。これは、生命保険の比率が高齢者ほど低くなるためだ。日本の場合、株式の比率はもともと低く、定期預金と保険が総資産のなかで大きな比重を占めている。このため、総資産中の各資産の比率は、これら2つの資産の変動によって大きな影響を受けるのである。
したがって、報告が言うように、「高年齢層のリスクに対する許容度は他の年齢層より相対的に高い」と言えるかどうかは分からない。
むしろ通常は、逆であると考えられている。すなわち、若年者の場合には、資産運用に失敗しても取り戻すチャンスがあるし、また将来に備えるために高いリターンが必要だ。だから、リスクに対する許容度が比較的高い。これに対して高齢者の場合には、資産運用の失敗を取り戻すだけの時間的余裕がないことが多いし、すでに資産を蓄積しているから、ことさら高いリターンを求める必要もない。したがって、リスクの低い資産での安全な運用を行う可能性が高いのである。