さまざまな部署を経験する人がいるかと思えば、1つの部署に数十年も留まる人もいるなど、企業の人事異動のパターンはさまざまだ。しかし、どうやら同じ部署に居続けることは、本人のキャリア形成にもマイナスに働くばかりか、時として会社にも大きな損害を与えることにつながりかねないようだ。

気に入らない決定はこっそりボイコット
社業停滞の犯人は秘書だった!

 社員数300人の外資系製造企業T社の人事部長時代に、社長秘書Yさんのマーケティング部門への異動人事を検討したことがある。Yさんは、事務処理能力、対人調整能力ともに高く、良いパフォーマンスを発揮していた。学習意欲、成長意欲にも富んでいた。

社内に伏魔殿ができたり、専門バカばかりがはびこるような状態は、実は硬直化した人事異動が引き起こしている可能性もある

 しかし、どんなにすばらしいパフォーマンスをあげている人でも、ひとつやふたつ、さらに伸ばしたり改善したりする必要がある領域があって当然だ。

 Yさんの場合、それはYさんが払拭できないある固定観念だった。

 Yさんは「社長秘書の役割は、社長のストッパーになることです。それが、真に社長の役に立つ秘書というものです」という信念を持っていた。そして、社長や経営会議の決定事項に対して違和感を覚えると、それらに関する秘書業務を意図的に停滞させるという“荒技”を行使して、ストッパーとしての役割を発揮してしまっていたのだ。

 T社が社長としての「初場所」だった外国人のN社長は、業務の進捗に時間がかかることに、フラストレーションを溜めていた。しかし、Yさんによって意図的に停滞させられているとは知りもせず、日本の特殊事情だろうと思い、日本人社員と融和しなければならないと秘書のプロセスに合わせていた。

 人事部長(私)との面談で、Yさんはストッパーになることの信念と、その信念に基づき秘書業務の進捗をコントロールしていることを話してくれた。言うまでもなく、社長や経営会議の決定事項の遂行を、秘書1人が独断で遅らせているのは大問題だ。しかし当のYさんはそのことが問題だとは少しも思ってもおらず、むしろ、並みの秘書にはできない、高度なサービスを提供していると思っていた。

 経営における牽制機能は、経営会議メンバー(社長、財務、人事、営業、開発の各部門長)が果たすべきで、社長秘書は社長の意思を実現するサポート役であるはず。一体、Yさんが誰からこんなゆがんだ仕事のしかたを学んだのか分からないが、これではいずれ、大損害に発展しても不思議ではない。