「3高」、「ねるとん」流行のバブル期
明るい街に"自分の存在"を消されていた
毎日、ワサワサと人がいるところに触れているだけでも、元気が出てくるという話を当連載でも以前紹介した。しかし、20年前に、若者文化の中心である渋谷の街に出かけたら、落ち込んだという当事者がいる。
「渋谷という街が、私にとっては明るすぎたんです」
こう明かすのは、都内に住む40代の須田耕一さん(仮名)。身に異変が起きた1990年当時は、まだバブルの絶頂期の頃。
「若者らしいことをしてみよう」と思い、須田さんは昼間、ふらっと1人で渋谷に行ってみた。街には、最新のDCブランドに身を包んだ男女が、楽しそうに浮かれ騒いでいる。
皆、同世代で違うわけがないのに、決定的に何かが違う。「この人たちとは、つながれないな」と思った。
「街の明るさが強く映れば、それだけ影の部分も濃く出る。そんな光のコントラストを感じてしまって…。渋谷には居場所なんてなかった。自分の存在すら、消えていたんです」
少なくとも、そのように感じた須田さんは、夕方、帰宅する頃にはがっくりと落ち込んでしまった。
その後、セラピストに診てもらったところ、「神経症」といわれ、病院に通った。
当時は、引きこもりとかフリーターとかいう言葉もない。自分がどんな状態なのかもわからずにいた。
ただ、世界は劇的に動いていた。
90年代に入ると、ベルリンの壁が崩壊。東西冷戦が終結した。それまでは「本当に核戦争が始まるのではないか」と思っていたのに、その緊張感から解き放たれた。
「ターミネーター」が、滅茶苦茶リアルに感じられた。「仮面ライダー」に出てきた悪役のショッカーは、敵の改造人間に洗脳される。その中の「死神博士」が強烈で怖くて、トラウマにまでなった。
しかし、その後、オウム信者が本当にショッカーのようなヘッドギアを付けていたのを見て、一気に幻想から目が覚めた。