前出のシンポジウム主催者である東京労働安全衛生センターの外山尚紀氏は「熊本地震では立ち入りを強化するなど、現場レベルでがんばって対応しているのは間違いない」と前置きした上で、こう指摘する。

「日本には、欧米で存在する建物所有者のアスベスト管理責任も義務づけられていません。アスベストの調査や分析、建物管理の法的な資格要件もなければ、除去業におけるライセンス制度も、除去工事が適正かどうかを管理・監視する仕組みもありません。しかも違法工事をしても罰せられることもまずありません」

 要するに、現在の規制は素人によるずさんな調査や対策を容認する仕組みとなっており、違法工事があったとしても罰則の適用もないということだ。いわば、無法地帯も同然なのだ。

 20年以上前の阪神・淡路大震災以降、震災のたびに大規模災害時のアスベスト対策の問題は指摘されてきた。東日本大震災の際には「被災地のアスベスト対策は完全に失敗しました」と県職員が明かすほど、ひどい状態だった。それから6年経ったが、結局、抜本的な制度改正はないまま放置されてきた。

 前出の延原タヨ子さんはこう訴える。

「うちの人は阪神・淡路大震災から15年後に発症しました。震災後やっと生活が軌道に乗ってこれからというときにアスベスト被害は発生するんです。熊本の皆さんが主人と同じようになってほしくない」

 熊本が復興一色に染まる中、またもアスベストの問題は見過ごされ、20年前の悲劇が繰り返されようとしている。