「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安。
北野唯我氏は、発売たちまち3万部を超えるヒットとなった『転職の思考法』で、鮮やかに答えを示した。「会社が守ってくれない時代」に、私たちはどういう判断軸をもって、職業人生をつくっていくべきなのか。
昨今のキャリア論で主流である「好きなことを仕事にすべき」という意見の危うさに、北野氏が切り込む。

「やりたいことを仕事にしよう」論はほとんどの人にとって重荷でしかない

楽しめることより「楽しそうであること」が才能である

「やりたいことを仕事にしよう」論はほとんどの人にとって重荷でしかない北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

「やりたいことがないのですが、どうすればいいのでしょうか?」

これは毎年のように就活生から出てくる質問の1つ。たしかに、就活や転職の場では必ずと言っていいほど、「やりたいこと」を聞かれます。もちろん「やりたいこと」を現時点で明確に持っている人はいいでしょう。

ですが、冷静に周りを見渡してみても「心からやりたいこと」なんて、持っていない人の方が多い。感覚的には95~99%の人が「なんとなくやりたいこと」はあれど、「心からやりたいと思えること」は持っていないように見えます。

では、その中でも「やりたいこと」や「好きなこと」を仕事に少しでもつなげるコツはなんでしょうか。方法は2つあります。

1つ目は「楽しそうに見えること」を大事にすること。ポイントは楽し「そう」に見えることです。

かつて、早野龍五東大名誉教授と話したとき、印象的な話がありました。早野教授は世界的な物理学者ですので、当然、研究室にも東大の中でもさらに優秀な学生が集まります。でもその中でも「本当に何かの成果を成し遂げる若者と、いわゆる東大までの人」で分かれてしまうわけです。「東大までの人」というのは、その名の通り「大学受験が人生のピークでその後は右肩下がりになってしまう人」を揶揄するフレーズとして使われるようです。

何かを成し遂げる人と東大までの人、その差は何なのか。これを聞いたときの早野教授の答えが、「楽しそうであるか」でした。どういうことでしょう?

多くの人にとって「どうしてもやりたい事」なんて無いし、不要

先日出版した初の著書『転職の思考法』は、幸いなことに発売14日にして、3万部のベストセラーとなりました。(本当にありがとうございます)何より嬉しいのは、私の元に読者の方から、温かいメッセージや激励の言葉を頂くことです。その中で一番、熱いメッセージをもらう部分が第4章に書かれている、人間には「何をするか」を重視するToDo型と「どんな状態でいるか」を重視する「Being型」の人間がいるという一節です。

詳しくは書籍の中に譲りますが、この章での主張の1つは「多くの人にとって「どうしてもやりたい事」なんて無いし、実は不要ではないか」ということです。現実には、99%の人が「どうしてもやりたいこと」に強くこだわらないBeing型の人間であるにもかかわらず、今の世の中はYouTubeのコピーに代表されるように「好きなことを仕事にすること」が強く推奨されている風潮に見えます。

現実問題、好きなことを仕事にできると努力がほとんど苦にならないため、とても強い。これは事実でしょう。同意です。一方で、これは「アドバイスとしては」2つの意味でほとんど無意味です。

1つは、本当にやりたいことを持っている人は、「他からなんて言われようが、自分のタイミングでそれをやるから」です。私の周りにも明らかに生まれながらにして「この仕事をするために生まれてきたのだな」と思わされる人が少なからずいます。ですが、そういう人は、遅かれ早かれ、どこかのタイミングでその仕事に必ず戻ります。天命のようなものでしょうか。

つまり、アドバイスなんて関係ないわけです。その意味で他人がなんと言おうと影響を受けない。

もう1つの理由は、より本質的です。それは、大半な人にとって本当に必要なのは「好きなこと」ではないからです。好きなことを仕事にするというのは、言わずもがな、厳密にいうと目的ではありません。もっと大きな目的でいうと「人生における仕事の充実感や満足度」を上げることが大事であり、「好きなことを仕事にする」はそのための手段の1つにすぎません。

ということは、より大事であるのは「自分の仕事を少しでも充実させるための方法論」です。では、これはどうすればいいか?

2つあります。1つ目はまさに、冒頭にある「楽しそうに見えること」を大事にすることです。

仕事=人が集まる場所・モノ・コト

楽し「そう」に見えるというのは、実は仕事をする上で圧倒的にアドバンテージがあります。冷静に考えてみて、仕事とは人が集まる場所、人が時間を使うコトから発生しています。人が対価として払うものが仕事となるので、当然です。

ということは、裏を返せば仕事の本質とは「他人が集まる場所」か「他人が時間を使ってくれるモノかコト」を作ることでしかないのです。

そして他人から見て「楽しそう」であることは、他人を巻き込む上で圧倒的なアドバンテージをもたらします。お祭りや、サッカーのワールドカップをイメージすればわかりやすいでしょうか。あえて言い切るなら、人が楽しそうであれば、必ずそこには人が集まり、仕事が生まれる。あるいは、あなたを助けよう!サポートとしよう!と手伝ってくれる人が現れ、会社ができあがる。こういう構造です。

糸井重里氏はこれを「先に銀座通りを作る。そうすれば、そこに自販機を置くだけで儲かる」と表現しています。

この際大事なのは、何度も言いますが、楽し「そう」であること。たとえば、内心は楽しんでいても他者からみて楽しそうに見えなければ人は集まらず、仕事にはなりづらい。反対に、実際はどうであれ、他者からみてどう見えるか、の方がこの文脈では重要なのです。

「他の人が褒めるけど、全然ピンとこないこと」を探せ

仕事の充実度を上げるための、もう1つの方法は「他の人が褒めるけど、自分では全然ピンとこないこと」から探すことです。人間というのは面白く、他人から褒められても、自分ではピンとこないことがあります。むしろ「本質はそこじゃないのに」「もっと他に褒められるべきところがある」と歯がゆく思うこともあります。ですが、実は才能とは「他人から褒められるけど、自分ではピンとこないこと」にこそ、眠っていることが多いのです。

これは、思考実験によって、もう少しわかりやすくなるかもしれません。想像してください。例えるなら、サッカーをまったく知らなかった少年が最近、サッカーを始めた。その際、たまたま天才メッシのプレーをみて「お兄さん、ドリブル上手いですね」と言ったとしましょう。

メッシからすると「当たり前だろ」と思うことでしょう。なんなら「イラッ」とさえするかもしれません。ですが、それこそ「あなたの才能であること」が多いのです。こういう能力は、成長の過程で、あなたがその技術について何度も何度も鍛錬を繰り返し獲得してきたものです。その結果、自分にとってそれは「あまりにも当たり前に、自然に」できてしまうものになっています。それって、「才能」ではないでしょうか?

もっとより身近で実践的な内容は、『転職の思考法』に譲りますが、つまり、ほとんどの人にとって大事なのは「どうしてもやりたいこと」ではなく、「人生における仕事の充実感や満足度」を上げるための具体的な方法論なのです。