発売たちまち3万部を突破した『転職の思考法』著者の北野唯我さんと、発売前からSNSを中心に大きな話題を呼んだ『ブランド人になれ!』(幻冬舎)著者であり、ZOZOのコミュニケーションデザイン室長を務める田端信太郎さん。奇しくも同時期に「サラリーマンの生き方」を説いた本を書いたおふたりが、全3回にわたってざっくばらんに語り合います。

生涯ひとつの会社で、しかも「無名の会社員」として奉仕し続ける時代は終わったと言われています。しかし実際、どうすれば自分を偽らず、「プロサラリーマン」として主体性を持って働き続けられるのかわからないという方も多いのではないでしょうか。

「職業人生の設計のプロ」と呼ばれる北野さんと、自身もLINEからZOZOへ5回目の転職をはたしたばかりの田端さんにそのヒントを伺ったところ、「転職童貞」という言葉が飛び出して……?(構成:田中裕子/撮影:中里楓)

「転職なんて、簡単にできるもんじゃない」という大ウソ

北野 『ブランド人になれ!』、拝読しました。田端節全開で楽しく拝読しました!

田端 ありがとうございます。アジ演説をイメージして、とにかく勢いを重視したんです。自分の本で言うと、2012年に出版した『MEDIA MAKERS』(宣伝会議)は10年経っても普遍的な内容であることを意識して書きました。でも、この本のテーマは「能書きはいいからやれ!」。

北野 「とにかくやれ!」と。わかりやすいですね(笑)

田端 本書のいちばんの肝は、行動させることです。せっかく1500円払うわけですから、行動に移してほしくて。ほら、ライザップはウン十万円払うからこそお客さん自身が結果にコミットするわけでしょう? 要は気構えが大切なんですよ。
行動を起こさせるという意味では、『転職の思考法』もゴールは同じですよね。内容も、もう本当に同意、同意で。あまりに一致するもんだから、バチバチぶつかるところがねえなあと思いつつここに来たんですが。

田端信太郎(たばた・しんたろう)
スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室長
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年 NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、18年2月末に同社を退職。3月から現職。

北野 ありがとうございます。田端さんはツイッターで、むかしから一貫して「会社がクソなら辞めればいい」とおっしゃっていますよね。そのたびに「強者の論理だ!」と炎上している。言い方は悪いのですが、とても興味深く拝見しています。

田端 「ブラックな環境にいるならそこから逃げ出せ」と言うと、「一般人がそんな簡単に転職できるか!」と非難の嵐ですからね。でも、僕からすれば「転職できないって本当?」と思うわけです。自分でムリだと思い込んで、勝手に縛られているだけじゃないのって。

北野 たしかに、データでみると、今、「二人に一人が転職する時代」と言われています。しかも、今後その数は間違いなく増えていく。だって、事業の寿命は短くなり、人生の寿命は長くなりますから。つまり「大転職時代」が来ているわけです。でも、転職者数自体は増えているものの、転職をネガティブに捉えている人はまだ少なくない。

田端 そう。大層なものだと思い込みすぎなんですよね。

北野 「転職すると年収が下がっていくんじゃないか」「裏切り者と呼ばれるんじゃないか」といった恐怖心は、人を思考停止にしてしまいます。もっと冷静に「思考」してほしいという願いから、『転職の思考法』という本が生まれたんです。
 
田端 すごく共感します。これは声を大にして言いたいのですが、すべての社員は等しく「30日前に通告すれば会社を辞める権利」を持っています。これは会社のルールではなく、国のルールです。あとは、その権利を行使しようと「自分が」腹を決めるかどうかなんですよ。

北野 ええ。僕は、働くすべての人が転職というカードを持つ世の中にしたいんです。自分が働く場を、もっと自由に、何度でも選べる世の中にしたい。「全員が転職のカードを持っているけれど、それでも転職せずに生き生きと働く会社」が本当のいい会社じゃないですか。そういう認識が広まってほしいですね。

北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

僕たちが「転職童貞」だったとき

北野 僕自身は新卒で博報堂に入社し、その後、海外留学を経てBCG(ボストンコンサルティンググループ)に転職。いまはハイクラス層を中心にした人材ポータルサイトで編集長を務めているのですが、「職業人生の設計」を普段から考えている身としてひとつ言いたいことがあって。

田端 なんでしょう?

北野 あえて品のない言葉を使うと、日本には「転職童貞」をこじらせてしまっている人が多いと思うんです。

田端 わはは、「転職童貞」、めっちゃわかります! いまやこんな転職煽りキャラの僕も、新卒で入社したNTTデータからリクルートに「はじめての転職」をするときはビビりましたもん。その後何度も転職したけど、あのときが一番考えましたからね。

北野 へえ、田端さんでもですか! 

田端 やっぱり未知のことですからね。あと、「育ててもらったのに」という申し訳なさもありました。使い物になってすぐ辞める、ということに負い目があって。

北野 そう、転職ってロジックだけでは割り切れないものですよね。僕自身、最初の転職を決めるときは眠れない日々が続いたり、当時付き合っていた彼女にも弱音を吐いたりと、なかなか踏ん切りがつかなかった。そういう、転職にまつわるリアルな「悩み」に寄り添いたくて、『転職の思考法』はストーリー形式にしたんです。

田端 ああ、そこは読んでいていいなと思ったポイントでしたね。

北野 物語の中にも、主人公の青野が転職を躊躇うシーンがあります。モヤモヤしたり、ウダウダしたりするんですね。でもこれは、物語の中だけではなく、現実の転職も同じ。田端さんはその気持ちをどう消化されたんですか?

田端 ちゃんと感謝の気持ちを伝えました。いくら権利とはいえ、「オレ、やめるんで。個人の自由っしょ?」みたいな態度はよくないですよね。人と人の関係は、会社を辞めてもずっと続くんだから。こういうことを言うと意外に思われるかもしれないけど、恩義は大事にすべきです。

北野 わかります。でも、田端さんなら感謝を伝える前に慰留もあったでしょう?

田端 僕、400人いる同期の中で3番目の退職者だったんですよ。しかも先の2人は心身の健康を崩して辞めたので、元気に明るく転職したのは僕がはじめてで。それくらい転職者の少ない会社でしたから、「もう少し考えたほうがいい」と結構引き留められました。

北野 ああ、上司の方は転職未経験だったのかもしれませんね。

田端 まさにそのとおり。そういう人たちにしたら「転職するとどんどん年収や条件が悪くなっていくぞ」みたいな老婆心もあったと思うんです。でも、転職を繰り返すジョブホッパーがそのまま元の会社にいて幸せだったかというと、誰にもわからないじゃないですか。
それに、上司に「辞めます」と伝えたとき、慰留されたり条件交渉されたりして退職を取り消すのはダサいと個人的に思っていて。これは僕なりの「サラリーマン道」の美学なんですけどね。

北野 上司に伝えるときは退職を心に決めたときだ、と。

田端 はい。いずれにしても、当時はネットビジネスをやりたい気持ちが強くなっての転職でしたから、残る選択はありませんでした。
結局僕は「転職童貞」を25歳で捨てたわけですが、リクルート以降の転職はイケイケでしたね。童貞と同じで、2回目以降はビビらなくなる(笑)。

北野 一番最初は、誰でも怖いもの。冷静に考えて、周りに誰か転職を経験した人がいたとしても、その人と自分は価値観も強みも性格も違うわけじゃないですか。「完璧なロールモデル」なんていない。不安になって当たり前ですよね。でも、一度やってみると「なんてことなかった」。だから僕は「転職童貞」って言葉がピッタリだと思うんです。

「給料を上げてください」とは、言わない

田端 『転職の思考法』は内容の充実度もさることながら、各キャラクターがそれぞれいい味を出していますよね。ネタバレになるけど、架空売上を計上していた部長とか(笑)。そうだ、僕ね、主人公の青野にちょっと言いたいことがあるんですよ。

北野 えっ、なんでしょうか?

田端 「社内の人間に転職相談をしちゃダメ!」ということ。同僚に転職を匂わせるのは、次の会社に行くと心に決めてから。これは鉄則です。まあ、ストーリーの中でも叱られていましたけどね。

北野 ああ、そうなんです。会社に残る人に相談してもほとんど有益な回答は得られないし、青野のように相談した同僚が自分の上司にチクってしまい、目をつけられて報復人事にさらされてしまうこともある。

田端 僕はここ最近ずっと管理職ですが、時々、上司に対しても「匂わせる」やつがいるんですよ。これは最悪で、もし転職せずに残ったとしても心象的にバッテンがつくだけです。「いつ辞めるかわからないやつ」と思われたら、余計におもしろい仕事が回ってこなくなる。

北野 わかります。匂わせる人は、引き留めてほしいだけの「かまってちゃん相談」のことも多いですよね。

田端 かまってちゃんになるくらいなら、「こういうことをやりたい」とアピールすればいいのにね。それで望んだ仕事ができればラッキーだし、ムリなら転職を考えればいい。

北野 つまり「悩んでいる」なら、そう言わずに「やりたいこと」を言うべきだと。おもしろいですね。たしかに、仕事内容と給与が見合っていないと感じるなら、「給料を上げてほしい」と交渉してもいいですしね。

田端 そうですね。ただ、これも「サラリーマン道」の美学として、僕は査定の面談で「給料を上げてほしい」って言ったことがないんです。

北野 へええ。なぜでしょうか? 

田端 いつでも辞める権利があるからです。評価が気に入らなかったら転職する、と覚悟しているから。

北野 また「強者の理論」と言われそう(笑)。でも、なかなか昇給しなかったことなんて田端さんにもあるんですか?

田端 あります、あります! それは自分のパフォーマンスに対する評価ですから納得して受け止めていました。とはいえ、会社の立場から言えば、こうして黙っているやつのほうがスパッと辞めるから怖いんですよ。「給料上げてください」って言うやつは留まる気満々ですもん。

北野 たしかに。

田端 雇用の流動化がすすむと、現場にいる人がエラくなっていきます。中途半端な額を提示した瞬間に辞められて他社に行かれてしまいますから。これってスポーツ選手への年俸提示で監督やオーナーのほうが緊張するのと同じでしょ? これから、「プロサラリーマン」はアスリート化していくと言えるでしょうね。

「転職童貞」をいつまでに捨てるか問題

田端 いままで「採用側」も散々経験してきましたが、応募者の年齢がだいたい28歳になると、素直で地頭がよくてやる気があるだけでは採用しづらくなるんです。つまり、ポテンシャル採用は26〜27歳まで。新卒で社会に出てから面接で「こいつは何ができるか」を見られるようになるまでの数年間で、自分が勝負する土俵が決まると理想的だと思います。

北野 となると、「転職童貞」の捨てどきは27歳までと言えるでしょうか。

田端 いや、これはまさにリアル童貞と同じで、「いつ捨てるか」にはそんなに意味がないんですよ。思い立ったときが捨てどきというか・・・。ただ、「捨てたい」と思ったときにすぐ実行に移せる状態でいることは大切で。

北野 はい、はい。そうですね。

田端 そのためにも、年に一度は自分自身をチェックする時間を持つといいでしょう。いまの自分はどれくらいの金額でどういうオファーもらえるか、自己査定するんです。その査定が頭にある人とない人では、たとえば望まない異動や転勤を提示されたときに上司に切り返す気迫も違ってきますから。

北野 僕が以前、Google日本法人前名誉会長の村上憲郎さんになぜ出世できたのか伺ったときも、同じことをおっしゃっていました。「毎年自分のキャリアを棚卸しして、ヘッドハンターからどう見えるか意識していた。40歳や50歳になった時点で「ヘッドハントされるような実績がない時点で、もうどうしようもないよ」と。だから常日頃から「自分のキャリアを棚卸しして、他者からどう見えるか」を意識する必要があります。

田端 そう、まさに棚卸しです。自分のマーケットバリューを客観的に見て、転職にあたっての強みや弱みを考えていく。

北野 本書では、キャリアの棚卸しにちょうどいい「自分のマーケットバリューの見極め方」を示しています。チェックするのは、「技術資産」「人的資産」、そして給料の原資となる「粗利」の額を決める「業界の生産性」の3軸。この3軸で構成される箱の大きさが、いまの給料の期待値なんです。理想的なキャリアは、この3つの軸のうち2つ以上が高い状態です。

出所:『転職の思考法』より

田端 この図、すごく明瞭でわかりやすいですよね。

北野 ありがとうございます。自分はどんな仕事をしてきて、どんな専門性があるのか? 会社を変えても仕事をくれる人がどれだけいるのか? 自分のいる業界の勢いは上向きか、下向きか? ・・・詳細は本書に譲りますが、年に一度の「キャリア棚卸し」は、転職を考えているかどうかに関わらずすべてのビジネスパーソンにやってほしいと思います。

<続く>

※この対談連載は全3回です。