仲良し夫婦ふたりの店

 木村洋食店は西浅草にある。合羽橋道具街と国際通りに挟まれた一画。この地域の江戸時代からのランドマークは、東本願寺だが、同店は、その裏に位置する。浅草・三社祭では、三ノ宮の神輿が通る。浅草は浅草寺だけではないと実感させる場所だ。駅でいえば田原町。2016年の暮にオープンしたばかりで、仲のいい夫婦ふたりの店である。

日本酒とライスが自慢の洋食店、激戦区浅草にあえて開店

 オーナーシェフは木村賢一。

「20歳を超えてから、ずっと洋食店で働いてきました。金を貯めて、そして、妻の貯金と合わせて小さな店を開きました」

 彼が修行したのは西麻布の麻布食堂、代々木八幡のせきぐち亭など、数軒になる。

 なぜ、洋食だったのか?

「料理人になろうと思って、ハタと考えました。イタリアンやフレンチは手間がかかるし、言葉を覚えるのも大変だと思ったのです。しかし、始めてみたら、洋食はやらなきゃいけない下ごしらえが膨大です。これほど手間がかかって面倒な料理は珍しいと思う。特にデミグラスソース。さまざまな材料を使ってもソースを煮詰めていくんですが、長年やっていても、よし、上出来だと思えない日がある。まあ、ほとんどは満足が行くのですが……」

 木村洋食店にはメニューには書いていないけれど、ハヤシライスがある。ハヤシライスはデミグラスソースの出来がよくて、しかも、量がたくさんある日しか出せない。

「食べられるとすれば木曜日」

 彼がそう言うのは、火曜日に仕込んで、休みの水曜日に一日、寝かせるからだ。

 ビーフシチュー(2400円)、タンシチュー(2700円)は常備してある。彼は謙遜するけれど、木村洋食店のデミグラスソースは洋食屋の本道を往く味がする。甘みを抑えてあって、脂っこくはない。