白内障の治療では、濁った水晶体を取り除き、人工のレンズを入れるが、単焦点のレンズだと、遠くのもの、あるいは近くのもののどちらかが見えづらく、術後は日常的に眼鏡などで矯正する必要が出てくる。2008年から先進医療として認められるようになった“多焦点眼内レンズ”は、遠近両方に焦点を合わせることができる。眼鏡なしで遠くも近くも見られるようになる多焦点眼内レンズとはどんなものか。

年間約60万人が受けている
白内障の眼内レンズ挿入手術

 加齢とともに気になり出すのが眼の衰え。新聞の文字が読みにくかったり、眼がかすんだりすることも多くなる。疲れ目ではないかと放置していてもなかなか治らないようなら、一度眼科を受診した方がいい。もしかすると、既に白内障が始まっているのかもしれない。

 白内障とは、眼の中にあるレンズの役割を果たす水晶体が白く濁ってしまい、光がうまく通過できなくなったり、光が乱反射して視力が落ちる病気だ。症状としては、ものがかすんで見えたり、まぶしくて見えにくくなったりする。

 その一番の原因は加齢。そのほか、アトピー性皮膚炎や糖尿病などの合併症や、外傷などで起こることもある。加齢性白内障は早い人では40代から発症し、70代では約半数、80代のほぼ全員が白内障になっているといわれる。

 ごく身近な病気である白内障の治療では、濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズに置き換える眼内レンズ挿入術が行われる。手術は比較的簡単で、まず角膜を2~3mm切開し、そこから細い筒状の器具を入れて水晶体を超音波で砕きながら吸引して取り除き、その後眼内レンズを入れて終了である。熟練した眼科医であれば、手術時間は15~30分ほどで、日帰り手術を行うケースもある。

 現在、年間約60万人(120万眼)がこの眼内レンズ挿入術を受けている。白内障手術を多く手がける東京歯科大学水道橋病院眼科のビッセン-宮島弘子教授は、「手術を受ける人の年代は、60~70代が最も多い。以前は、視力が0.1程度まで落ちてから手術をする人が多かったが、最近では仕事や趣味に支障が出たと感じて、見え方の質を上げたいという人が手術を受けることが多くなった。手術年齢は下がる傾向にある」と話す。