血液のがんの一つに成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)という病気がある。年間の発症数は約700例と多くはないが、治療が難しく、多くの患者が亡くなる病気だ。実はこのATLの原因は、HTLV-1というウイルスで、最も多い感染経路が母乳による母子感染であることがわかってきた。母乳を飲ませないことで、乳児のウイルス感染をある程度防ぐことができるのだ。そこで、昨年10月には厚生労働省は、妊婦健康診査の項目の一つに「HTLV-1抗体検査」を追加した。母親がHTLV-1を持っているかどうかを検査し、必要に応じて授乳制限することで子供への感染を防げる環境が整ったといえる。ATLとは何か、なぜ授乳制限が有効なのか。
現在、骨髄移植以外に
治療法のない難病
白血病には、様々なタイプがあるが、その中の一つが成人T細胞白血病(ATL)である。ATLは、HTLV-1というウイルスが原因で、国内の患者数は約2000人、年間の発症数は700人とされる。
ATLの最大の特徴は、きわめて予後が悪いこと。長崎大学医学部産婦人科の増﨑英明教授は、「1996~2000年に発症した患者の5年生存率は、男性が約22%、女性が約17%。残念ながら、今のところ、ATLは骨髄移植以外の治療法がない」という。
HTLV-1が原因とはいえ、HTLV-1に感染してもATLを発症しない人の方が圧倒的に多い。HTLV-1に感染しているが、ATLを発症していない人を“キャリア”と呼ぶが、キャリアのうち、ATLを発症するのは2.5~5%に過ぎない。
また、HTLV-1キャリアは地域に偏在しており、かつては沖縄や鹿児島、宮崎、長崎県に多かったために“風土病”として扱われたこともあった。しかし、近年、人口の流動化によって、都市部でもキャリアやATL発症者が増えている。