ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第11回目は、英語圏における仏教本の流行について。

仏教がつぎの“トレンド”になる?

アメリカでベストセラー入りしている仏教関連本は?

 英語圏における仏教の入門書といえば、鈴木大拙(著者名の英語表記はD.T. Suzuki)のAN INTRODUCTION TO ZEN BUDDHISMがスタンダードとなっている。初版は1934年で、その後に分析心理学で知られるカール・ユングが序文を寄せたこともあって広く読まれるようになり、これまでに一度も絶版になったことがないロングセラーだ。

 その後様々な著者によって、仏教はキリスト教から改宗すべき宗教の教えとしてではなく、もっと軽いセルフ・ヘルプやスピリチャルといったカテゴリーの本を生み出してきた。

 だが、そろそろ新しいアプローチがあってもおかしくはないだろう。今アメリカでベストセラーリスト入りしている仏教関連の本の切り口が新鮮だったので紹介しよう。

WHY BUDDHISM IS TRUE: The Science and Philosophy of Meditation and Enlightenment/Robert Wright

 著者ロバート・ライトは1995年に日本語版が出た『モラル・アニマル』を上梓しており、チャールズ・ダーウィンの生涯で起きた実際のエピソードをベースに、男女の本能の違いについて考察し、それはまるでユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』にも通じる“読ませる”ノンフィクションだった。

 新刊『WHY BUDDHISM IS TRUE(なぜ仏教は真理なのか)』では、人間の脳がどういう風に進化してきたのかという進化論を織り交ぜながら、仏教が考える「無我の境地」とはどう説明できるのか、瞑想にどのような科学的効果があるのかを検証しており、輪廻の思想や、ブッダの教えを説く本とは一線を画している。データや科学的証拠に基づいて「悟り」や、ここ最近バズワードとなっている「マインドフルネス」を説明するのは、agnostic Buddhismという世界観であり、その一風変わった説法にはそれなりの説得力があるようだ。