ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第9回目は、ビジネス書の本場、アメリカのビジネス書賞について。

ビジネス書の本場・アメリカのビジネス書賞とその受賞作

 「ビジネス書大賞2017」が発表された。今年は『サピエンス全史 上・下』『ライフシフト』『やり抜く力』の3つの翻訳書がとにかく目立っていたが、ビジネス書を選ぶときに、こうした賞を参考にされているという方も多いのではないだろうか。

 それではビジネス書の本場米国には、どんな賞があるのだろうか?

 斬新な発想のビジネス書を次々と世に送り出すアメリカだが、ビジネス書に与えられる賞はじつはほとんどない。全米図書賞、ピューリッツァー賞、全米書評家協会賞、PEN協会賞あたりが一般書のメジャーな賞だが、そこにも「ビジネス書」「経済書」といったカテゴリーはない。

 数少ないながらもビジネス書を対象としているいちばん有名な賞としては、経済紙「ファイナンシャル・タイムズ」(日経が2015年暮れに買収したというニュースを覚えている人も多いのでは)とスーパーコンサルファーム、マッキンゼーが提携してスポンサーとなっている「ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー」がある。2005年に設立されたので、歴史もさほど古いわけではない。

 その初回受賞作は、トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』(日本経済新聞出版社)だった。さらには3年前のトマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房)など、日本語にも翻訳されてヒットした本もいくつかあるが、ウィリアム・コーハンの“THE LAST TYCOONS”や、モハマッド・エルエリアンの“WHEN MARKETS COLLIDE”など、未翻訳のものも多くある。

 ビジネス書に与えられる賞といってもウェブ上で発表するぐらいで、毎年11月にニューヨークで行われているという授賞式も、ファイナンシャル・タイムズやマッキンゼーが関わっているとは思えないほど地味だし、ニュースの速報で流れるわけでもない。賞金も3万ポンド(400万円強)と大した額ではない。

 事前に発表される最優秀賞のロングリスト(初戦突破みたいなもの)とショートリスト(最終候補作品)の発表はウェブ上でひっそり行われ、いつのまにか決まっている感じだ。賞をとったからといって、一躍注目されて急に売れたりするわけでもない。

 さらに地味なビジネス書賞として「アクシオム」ビジネス書賞というのがある。こちらも創業2007年とまだ10年も経っていない。この賞は受賞作を1冊を選ぶのではなく、ジャンルが細かく分かれていて、それはなんと22部門にも及ぶ。

 一般ビジネス論や経済論から、セールス(営業スキルアップ)といった日本でも需要がありそうなジャンル、あんまり関係なさそうなネットワーキングや転職(アメリカではずっと同じ会社に勤めるのではなく、個人の業績を積んでもっと条件のいい転勤先に移って出世していくので、こういう本の需要がある)、ビジネスメモワール・評伝までと様々だ。22番目のカテゴリー、Business Fable(ビジネス寓話)というカテゴリーは聞きなれないかもしれないが、『チーズはどこへ消えた?』(扶桑社)、『仕事は楽しいかね?』(きこ書房)などのタイトルがそれに当たるといえばピンと来るだろう。