仏教における新しいアプローチ、と言えばまず思い出されるのがアメリカで不動の人気を誇るダライ・ラマ14世だ。彼が世界中を飛び回り、様々な分野の知識人と対話した本は必ずと言っていいほどベストセラーになる。今もベストセラーチャートで見かけるのが、同じノーベル平和賞を受賞した南アフリカのデズモンド・ツツとの対談をまとめたTHE BOOK OF JOY: Lasting Happiness in a Changing Worldだ。宗教は違えど、共に祖国での弾圧と戦い抜きながら笑顔が印象的なこの2人が、人生の「喜び」について科学的な考察をしているのが興味深い。
英語圏で仏教的な本がブームになる理由
さらにもう1冊、今度は生物学の観点から仏教を考証した本が予定されている。
THE ENLIGHTENED GENE/Arri Eisen and Geshe Youngrung Konchok
こちらはエモリー大学の生物学者と、僧侶である2人の著者が「生命」について宗教と科学両方の見地から語る内容になっており、「遺伝子」と「生命というものの理解」というキーワードが興味を引く。この本にもダライ・ラマが序文を寄せているが、彼が関わる本は日本では隣国への配慮もあるのか日本語版は未定のようだ。
日本でもひとところ「仏教」と「片付け」を結びつけた「断捨離」本が何冊ももてはやされたことを思い出す。その中の片付け法の1冊が近藤麻理恵の『人生がときめく片付けの魔法』であり、英語圏でも一大ブームになった。この本では「断捨離」という言葉こそ使っていないが、根底にある「捨てるときに感謝の気持ちを込める」「モノに命が宿る」という発想は西洋から見るとやはりアニミズム的なスピリチャルであり、仏教的だと捉えられのだろう。
なぜこういった本が好まれるのか? やはりその鍵は科学的な理解だけではなく、「Joy(喜び)」をもたらしてくれるからなのではないかと考えている。近藤麻理恵の「ときめき」も英語ではSpark Joyという言葉に置き換えられている。
アメリカでも最近は若者層を中心にキリスト教離れが徐々に進行している。トランプ大統領を支持した福音主義キリスト教徒勢力の一部が白人至上主義に走ったり、やみくもに聖書を信じるあまり地球温暖化を否定したりしているので、その反動として、平和を希求し、人生の喜びにフォーカスを当てた仏教の理論が魅力的に映るのかもしれない。