>>(上)より続く

「俺はカトリックを信仰しているんだ。中絶は殺人だろ!?母親は子どもを守る存在であるべきだ。それなのに殺すってどういうこと?エコーを見ただろ。胎内で動いている子どもをその目で見て、本当に殺せるのか?」

 彼が教会に通っている形跡はないので「カトリック信仰」が作り話なのは見え見え。しかも検査等で何度も病院に足を運ぶのも、お腹を痛めるのも、彼ではなく美鈴さん。だというのに彼は一度も病院に足を向けたことはなく、もし美鈴さんが中絶手術に踏み切ったとしても、少なくとも彼はお腹の胎児がいなくなるという罪悪感や喪失感を抱くことはなく、中絶の後遺症に悩まされるのは美鈴さんだけです。なぜなら、美鈴さんも決して堕したくて堕ろすわけではなく、苦渋の決断だったのだから。

 それなのに美鈴さんの負の感情を逆手にとって精神的に動揺するような言葉を投げかけ、思考停止に陥るように仕向けたのです。そんな不毛なやり取りを続けたせいで、彼を説得できないまま時間ばかりが経ち、中絶できなくなるまで時間を稼ごうという彼の企てに美鈴さんが苦戦を強いられていたところで、私に相談に来たのです。

彼の説得に手間取り
中期中絶手術を受けることに

 中絶手術を受けるには同意書に子の母親(美鈴さん)、父親(彼)が署名する必要があります。人違いを防ぐため、母親については健康保険証等で本人であることを証明しなければなりません。一方、父親については署名のみで足り、公的書類による本人確認は不要です。

「善悪はともかく同意書を代筆するケースは決して珍しくなく、彼が無視している場合、連絡が取れない場合、署名をもらえない場合はやむを得ずという感じで、代わりに記入したと耳にすることは多いです」

 私は緊急避難的な方法を美鈴さんに教えました。美鈴さんはそれを踏まえた上で彼に対して「どうしても首を縦に振らないのなら、父親の欄はこっちで何とかするから、好きにすればいいじゃない!こっちで用意するからさ!!」とメールで伝えたのです。