ガソリン税の暫定税率が復活した5月1日、全国のガソリンスタンドの約80%が前日よりもガソリン価格を引き上げた。値上げ額は30円前後とかつてない上げ幅となり、ドライバーにとっては頭の痛い話となった。

 4月1日のガソリン税の暫定税率失効時は、値下げが浸透するのに2~3日かかったのに比べると、いっせいに値上げを行なった格好だ。なぜこれほど一気に値上げが断行されたのか。

 一部では、「値上げが本格化するのはゴールデンウイーク後」との見方もあった。現に町村信孝官房長官は4月末の記者会見で、「休み中に一気に値上がりすることはないのではないか」と発言していたほどだ。

 石油情報センターの価格調査によると、1日のレギュラーガソリン店頭現金価格は1リットル当たり153.4円となり、4月28日の調査比で22.8円上昇した。2割程度のスタンドが値上げしていなかったことを考慮すると、値上げに踏み切ったスタンドは30円前後値上げしたことになる。

 暫定税率は1リットル当たり25.1円だが、原油高に伴うコスト上昇があるため、石油元売り各社の卸価格は30円前後引き上げられており、そのまま末端価格に転嫁されたといえる。

 値上げが浸透した理由は簡単である。たとえ周辺のスタンドが安値販売を続けたとしても、在庫は数日でなくなるのは目に見えているため、市場価格はいずれ暫定税率が上乗せされた価格に収斂するからだ。

 4月の値下げ時には、「値下げせずに頑張っても取り残されるだけ」という状況だったのと比べれば、値上げすることへのハードルは低かった。「4月の値下げで発生した赤字を穴埋めできる」との思惑も後押しした。

 加えて、各地のプライスリーダーである安売りスタンドが一日未明から続々と値上げを行なった影響も大きい。宇都宮市のあるプライスリーダーは、「4月29~30日に通常の2倍以上の客が来店し、在庫が予想以上に減少した。日付が変わった1日も値上げしなかったが、早朝3時頃には在庫が尽きた」という。安売りスタンドはどこも同様の状況のようで、値下げを継続するだけの在庫はほとんど残っていなかった。

 政治不在によって引き起こされたわずか1ヵ月だけの「ガソリンバーゲンセール」。大きな混乱を招いたすえに、価格に敏感になった消費者だけが取り残された。そして、原油価格の世界的な上昇により、ガソリン価格は2年前に比べて約50円上昇。「まだ卸価格に転嫁できていないぶんもある」(石油元売り会社)状況で、さらなる値上げが待っている。

 そうなれば、減少に転じているガソリン需要をさらに減退させるだろう。スタンドの5~7割は赤字といわれており、スタンド業界の競争がさらに激しくなるのは必至といえる。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)