第3章

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 森嶋はただ室山と玉井たちの話を聞いているだけだった。

 話がこれほど進んでいるとは思ってもいなかったのだ。

 横で早苗が彼らの言葉に小さく頷いている。

「3年前から準備していたことだ。いずれ役に立つかもしれないという漠然とした理由だけでね。ここの3人の方たちは様々なアドバイスをくれた。そして出来あがったのが、あの都市模型だ。私は皆さんには感謝している」

 村津は森嶋から1人ひとりに視線を移していった。

「村津さん、あなたは国交省を退官し、野に出られた。用意されていたすべての役職を断って、ご自分の思いを貫いてこられたのはこの時のためなのでしょう。まさに、すべての業には時がある、ということですな」

 室山がしみじみとした口調で言った。

「どういうことですか」

 森嶋は早苗に身体をよせ、小声で聞いた。

「聖書の言葉よ。父がよく言ってたの。天が下のすべての事には季節があり、すべてのわざには時がある」

「しかし始まりはこれからだ。総理の言葉は、単なるスタートの合図だ。問題は山ほどある。その一つ一つがエベレスト級のものだ」

 村津は決意を込めた口調で言った。

「幹事会社は国になる。これから数年間は日本政府、すべての国民、企業が一つの目的に向かって歩まなければならない。日本に、まだ余力が残されている間にやらなければならないことだ。その中から、世界に強いメッセージも送ることができる。まさに平成維新と呼べるものだ」

「反対勢力も限りなく出てくるでしょうな。地道な説得しかないでしょう。総理はやれるでしょうかね」

「この事業は企業の利益など超えたところにあると思っています。今日から企業の枠組みを取り払って、新生日本の顔となるべき首都建設のために働くつもりです。そのための根回しは八分通り進んでいます」

 玉井の声には多少の興奮が混じり、強い決意が感じられる。

 森嶋は半ば唖然と、出席者たちのやり取りを聞いていた。同時に危うさも感じていた。