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経営者意識を持ったリーダーを
多数輩出する

 では次に、アメーバ経営の運用面での課題として挙げられる「時間当り採算表の伝票処理が非常に煩雑であること」についてお聞きします。

 たしかに、手間は間違いなくかかります。ですが、それ以上に「経営を細かく見る」ことのメリットは大きいと思います。

 私がゼロからセラミック基板の生産ラインを立ち上げた時のように、計画と実行の乖離を埋めるためには、緻密な管理が欠かせません。一つひとつのアメーバの積み重ねが、会社の成果につながるからです。当社のように幅広い事業を展開するのであれば、なおさらです。

 またアメーバ経営は、アメーバごとに独立採算を目指すことで、経営者意識を持ったリーダーを多数輩出することを目的としています。つまり、全社員の力を結集する仕組みでもあるのです。

 アメーバ経営は独立採算型であるため、実力主義だといえます。にもかかわらず、そのカギを握る「時間当り採算表」が人事評価に直接つながっていないのはなぜでしょうか。このあたりがわかりにくい部分でもあります。

 おっしゃる通り、「時間当り採算表」の数字だけで評価することはしないようにしています。それは配属先による不公平感をなくすためです。

 実際、非常に利益が出ている部門がある一方で、赤字で苦しんでいる部門もあります。採算表の数字だけで評価してしまうと、赤字部門の人たちは全部バツで、利益が出ている部門の人たちは全部マルということになってしまう。赤字部門の人は、「たまたまここに配属されただけなのに……」と思うことでしょう。
 ですから、まったく数字を考慮しないわけではありませんが、数字が評価のすべてにならないように調整しています。

 ちなみに、採算表の数字を考慮する割合はどのくらいですか。たとえば、50%くらいでしょうか。

 いや、そんなに割合は高くないです。むしろ、赤字・黒字にかかわらず、各部門の中で相対的に評価の高い人、そうでない人を決めています。

 もちろん評価の一部には、採算表の数字、つまり部門の業績も考慮されますが、利益の出ている部門においては、高評価の人の比率が少しだけ高いという程度です。配属先による不公平感をなくし、できるだけアメーバメンバーである一人ひとりの成果を見るようにしています。

縦割りの弊害を
どう乗り越えるか

 最後に挙げるアメーバ経営の課題は、構造的な問題ともいえる「縦割りになりやすい傾向があること」です。
いまはあらゆるものがつながり、コミュニケーション型のシステムやサービスが重視されます。アメーバ経営も独立採算にこだわるだけでなく、アメーバ同士の統合や連携も含め、自在に変化する必要があるかもしれません。未来のアメーバは、どのような姿に変わりそうですか。

 アメーバ経営のせいかどうかはわかりませんが、正直に言って当社は、企業風土として、縦割り意識が強い会社であることに間違いありません。いままではそれでよかったと思います。

 ですが、IoTにはセンサーや通信機能、ビッグデータ処理にはAIが必要となり、あらゆるものがつながっていく中で、残念ながら、縦割りのデメリットが生まれるケースも増えつつあります。

 「経営を細かく見る」という意味でのアメーバ経営の大切さは変わりませんが、事業環境の変化に応じて、組織のあり方を見直さないといけません。

 そこで今期(2018年度)からは、車載やエネルギー、IoTといったテーマごとに、マーケティングとR&Dが部門横断した横串型のプロジェクトをいくつか始めました。そこに、通信やディスプレー、部品の技術者たちが加わることで、製品の最適化も進めていきます。

 以前、松下電器(現パナソニック)が事業部制による縦割りの弊害を乗り越えようと横串を刺す仕組みを導入しましたが、思うように成果は上げられませんでした。京セラは、うまくいきそうですか。

 これまでの事業環境では、縦割りの組織体制のほうが、効率がよい面が多かったと思います。

 でもいまは、そのやり方でこれからの時代に不可欠なAIのプロフェッショナルを各事業部で育てられるかといったら、そうはいきません。縦割りでは限界があり、横串を刺さなければどうにもならない。それをみんなが理解していますから、きっとできると信じています。