新型コロナの新たな安全地帯:中国Photo:Reuters

【北京】新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が先週英国で悪化し始めたことを受け、ジェニー・ランさんは一番安全な場所を思い浮かべた。それは中国だった。

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の大学院生である彼女は、英国人がマスク着用などの予防措置を講じていないことを心配しており、「このコロナウイルスについて、英国の人々は重大なことと受け止めていない」と語った。ランさんは17日の航空便で、中国で暮らす両親のもとへ帰る予定だ。両親が暮らす地域では、新型コロナウイルス感染者は報告されていない。「地元政府はうまくコントロールしている」とランさんは語る。

 何週間か前には、人々は新型コロナウイルスの感染を避けるため中国から逃げ出していた。現在は状況が逆転している。人々は、世界で最も安全な場所は中国だと考え、中国へと向かっている。

 アップルは中国市場の全店舗を再開したが、13日には中国以外の全地域の店舗を2週間閉鎖すると発表した。このウイルスが最初に見つかった地である武漢を本拠地とする中国サッカーリーグの1チームは、スペインに置いていた臨時拠点を離れ中国に戻る予定だ。スペインでウイルスの感染状況が悪化したことがその理由だ。電子商取引大手アリババグループの創業者で億万長者の馬雲(ジャック・マー)氏は最近、マスク100万枚、ウイルス検査キット50万セットを米国に寄付すると約束した。

 中国の国家衛生健康委員会はこれまで、ウイルスについて国内の人々の監視に焦点を当ててきたが、16日には、今や国外からの輸入感染を防ぐことが優先課題になっていると表明した。北京市は15日、首都をウイルスから防衛するための新たな措置として、国外から同市に入る者に対し、指定されたホテルでの14日間の隔離を義務付けると発表した。

 中国で市民の生活が正常化したとは言い難いが、人々は状況が安定してきたと感じている。ビジネスの閉鎖、自宅隔離、マスク着用義務、あらゆる場所での検温など、政府の厳格なウイルス対策を市民が進んで受け入れたことがこうした成果につながったと評価する声が多い。そして中国の市民は、次のような疑問も抱いている。中国で過去2カ月間に起きた状況を目にしていながら、世界の他の国々はなぜ、準備を怠っていたのだろうか。