【オピニオン】コロナ禍を利用する中国の深謀Photo:Reuters

――筆者のウォルター・ラッセル・ミードは「グローバルビュー」欄担当コラムニスト

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 イランでは遺体が各地の集団墓地に放り込まれ、イタリアでは患者であふれかえった新型コロナウイルス病棟で医師らがトリアージ(重症度判定)を行い、欧州と米国の諸都市では地域封鎖が実施されるなど、日々展開される混乱と苦悩から目を離すことができなくなっている。

 新型コロナウイルスは、ジェット機時代のパンデミック(感染症の世界的大流行)として、高度に一体化した世界経済の枠組みのなかで、驚異的スピードで拡散したが、その政治的影響の全体像はまだ明らかになっていない。ウイルスによる打撃を緩和し、治療方法を見つけ、最終的にはワクチンを開発するための取り組みが、どの程度順調に進むのかによって、こうした政治的影響は変わってくる。

 しかし、現在の流れを見ると、このパンデミックは国際政治システムにとって、今生きているほとんどの人々の記憶にないほどの試練になる可能性が大きいように思える。皮肉なことに、中国で発生した新型ウイルスの感染拡大は、最終的に中国の国際的影響力の拡大をもたらすかもしれない。

 このパンデミックは既に、米国と中国の間の亀裂を広げ、競争を激化させている。ポンペオ米国務長官が先週末、筆者に語ったように、米国は中国に医療支援を提供しており、両国の医療・技術分野の人的協力関係は続いている一方で、中国は、大規模な宣伝活動と偽情報戦略を展開するためにパンデミックを利用している。こうした偽情報のなかには、米国が中国にウイルスを持ち込んだとの主張も含まれる。トランプ大統領が中国の習近平国家主席との対話路線維持に努めているにもかかわらず、両国の関係は1989年の天安門広場での大虐殺事件以来、最も困難な類いの状況になっている。

 一見すると、今回のパンデミックは、中国の投資および貿易に依存しすぎることの危険を浮き彫りにしている。中国が経済の再開に悪戦苦闘するなか、世界のサプライチェーン(供給網)の混乱は、世界中の企業に新たな困難をもたらすだろう。イタリアでも、イランでも、新型ウイルスの感染者が最初に急増したのは、中国人のビジネスマンや貿易業者が多く集中する場所だった。だが、地政学的リスク専門のコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」のイアン・ブレマー氏が警告するように、中国政府がグローバルな政策課題に重点を置き、西側諸国が国内の関心事のみを重視すれば、バランスが中国に有利な方向に再度傾く可能性がある。