インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「恋愛なんて時間のムダ」と断定する前に知るべきことPhoto: Adobe Stock

[質問]
恋愛は時間のムダだ、と思ってしまいます

 私は大学一年生の男です。恋愛についてモヤモヤしていることがあり、相談させていただきます。

 私はこれまでずっと野球をやっていて、一昨年、去年とニ年浪人して大学に入りました。

 これまでの人生で、人を好きになることもありましたし、その人も私のことを好きかもしれないな、と感じることもありましたが、この人と付き合うと想像したとき、「今付き合ったとして結婚する確率はほぼないだろう。なら何のために付き合うのだろう」といった思いや、「恋愛なんて時間の無駄だ」という思いが頭に浮かんでしまい、自分から告白はおろか相手から告白されても断ってきました。これまでにお付き合いした女性は一人もいません。大学でも野球を続けるので、野球や勉強に真剣に取り組めば、恋愛に割ける時間は少なくなりますし、何よりそういう状態では相手だって楽しめないだろうと思ってしまい、ブレーキがかかります。人を傷つけるかもしれない恋愛というものに恐怖心さえ抱いてしまいます。

 恋愛してる人をみると、心の中では羨ましく思う一方で、「なんて無駄な時間を過ごしているのだろう」と斜に構えてしまいます。

 しかしながら、恋愛は人生においてかけがえのない大切な体験なのではないか、とも思っています。20歳を超えていながらたったの一回も恋愛経験がない自分はこれでいいのかとも思います。恋愛に憧れている部分もあります。周囲の人間が恋愛や失恋を経験している中焦りもあります。自分の恋愛に対する認識の歪みもなんとなく感じています。下品な話かもしれませんが、性に対する興味も強まるばかりです。

 これまで長々と駄文を書き連ねてきましたが、結局のところ、私はただの一度も経験していない事についてグダグダと考えているに過ぎません。

 私の恋愛に対する認識のなかに、歪んだものや、美化しているもの、その他様々なズレを指摘していただきたいです。よろしくお願い致します。

恋愛は行動の意味付けであり組織化です

[読書猿の解答]
 まず最初に申し上げなければならないのは、恋愛についての正しい認識なんてものはないこと、あなたがするかもしれない恋愛も、どこまでもあなた独自のものであって誰かの経験と交換できないことです。

 これだけだと何のことか分からないと思うので、少し説明しましょう。

 恋愛とは、何か特定の行動のことではなく、自分の行動に「相手が好きであるからそうする(した)のだ」という理由付けをすること、そしてその理由だけによって複数の行動を結びつけ組織立てることを言います。

 例えば同じ相手と同じ映画を行くとしても、「その映画が見たいから」というのは恋愛ではなく「その人が好きだから一緒にみたい」のならば恋愛行動です。あるいは、同じ1本のタバコも、仕事の合間の休憩として吸うならば恋愛ではなく、亡き恋人思って喫するなら恋愛行動であると言えるでしょう。

 もちろん理由付けが変われば行動の詳細も変わります。好きな人と見に行く映画なら、着ていく服装も見ているときの仕草も、見終わった後に交わされる言葉も違っているでしょう。

「相手が好きだから」と理由づけされる行動は多岐にわたり、結びつけられる行動の範囲はいくらでも広がります。

 けれども、私達の人生がみなそれぞれ異なり独自なものであるように、人生を形作る行動の多くを理由付ける恋愛もまた、似ているところはあっても、すべて異なり独自のものとなるはずです。人生の数だけ、いやほとんど行動の数だけ、恋愛はあるといっていいと思います。

 厄介なのは、恋愛には相手があることが多いので、お互いの理由付けが、そしてそこから発した相手に期待するものが、互いに一致するとは限らないこと、にもかかわらず、歌の歌詞にありましたが、恋愛が各自が行うおもいおもいに見る夢のようなものであればこそ、誰かと同じ夢を見たいと願ってしまうことです。

 恋愛が行動の意味付けであれば、その食い違いは意味の喪失(時には剥奪)につながるかもしれません。これはしかし、実際に恋愛して悩んだ時に、改めて考えればよいことです。

 ともあれ、恋愛は行動の意味付けであり組織化ですが、行動や人生そのものではありません。恋愛なしにも行動は可能だし、人生は続きます。