「効率化」の推進は、企業にメリットをもたらすかPhoto:iStock

経営学の大家ヘンリー・ミンツバーグ。『マネジャーの仕事』『戦略サファリ』などのベストセラーでも知られる氏が「これは私にとって12冊目の著書だ。これまで書いた中で一番真剣な本と言えるかもしれない」と述べるのが2月17日に発売となった『これからのマネジャーが大切にすべきこと』である。

本書は「マネジャーは欠点を見て選べ?」「意思決定とは『考えること』ではない」など、42のストーリーで構成されており、遊び心に富んだ表現で、マネジャーの仕事の本質を鋭く説いている。

今回はその中のストーリーの1つ、「『効率化』の落とし穴」を紹介する。

数値測定できるものしか、効率化はできない

 母の愛にケチをつけるのが難しいのと同じように、効率化に反対することは難しい。物事の効率を改善すれば、同じ苦労や同じ負担で得られるものの価値を増やすことができるからだ。

「本当はノーベル賞ではない経済学賞」(「ノーベル経済学賞」はノーベル財団ではなく、スウェーデン国立銀行のエコノミストたちがエコノミストに授与するために創設した賞だ)の受賞者の一人であるハーバート・サイモンによれば、効率はきわめて有用で完全に価値中立的な概念だ。目的が何であれ、効率を高めれば最小のコストで目的を達成できる。効率を高めることに反対できる人など、どこにいるだろう。ここに一人いる。それは私だ。

 次の2つの例において、「効率的」とは具体的に何を意味するか考えてみてほしい。あなたの頭にまず浮かぶ言葉はなんだろう。

 まず、効率的なレストラン。この場合、料理が提供される速さのことだと思った人が多いだろう。料理の味を思い浮かべる人はおそらく少ない。それはなぜか。

 次は、効率的な住宅。最も多くの人が連想するのは、エネルギー効率だろう。でも、家を購入するとき、デザインや交通の便、近所の学校の評判ではなく、エネルギー効率を基準に家を選んだ人がいるだろうか。

 私たちは、どうしてこのような発想をするのか。考えてみれば、これは当たり前の反応だ。人は「効率」という言葉を聞くと、無意識に最も数値計測しやすいものに目が向く。料理が提供される速さやエネルギー効率はその典型だ。多くの場合、効率とは「計測できる効率」のことなのである。効率という概念は、サイモンの言う「価値中立的」なものとはとうてい言えない。計測しやすいものを偏重しているからだ。この傾向は、以下の3つの問題を生む。