マイクロソフトが買収の「音声認識ソフト」、医療IT激変の破壊力Photo:SOPA Images/gettyimages

 キュア・アップの禁煙治療用アプリ、アップルウォッチの心電図アプリなど、医師と患者をデジタルでつなぐ製品が日本でも相次いで登場している。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、遠隔診療も事実上解禁されている。3度目の緊急事態宣言が発令され、病床が不足している大阪府では、自宅療養を余儀なくされている中等症の患者もいる。在宅医が酸素吸入器を患者宅に送り、スマートフォンを通じて様子を見るオンライン診療で対応しているのが現状だ。

 現在、医療分野は「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革する」ことを意味するデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れが加速している。

 都内で800床の大病院の事務局長はこう話す。

「不謹慎な話だが、政府による新型コロナの対策が遅れれば遅れるほどDXの波が医療機関に押し寄せる。もし1年で収束していたら、遠隔医療も地域限定にとどまったかもしれない。だが、ワクチンの流通状況から考えても、年内に収まる兆しもない。DXの実践は医療機関経営の最重要課題になるし、旧態依然の対面診療を重視した診療報酬体系も見直してもらわなければ、苦しくなる」

ニュアンスは医療機関を席巻

 こうしたなか、日本の医療分野のDXを大きく進める買収劇が米国で起こった。

 米マイクロソフトが4月12日、米ニュアンス・テクノロジーを約2兆1500億円(194億ドル)で買収すると発表したことである。マイクロソフトによるニュアンスの買収は、16年にビジネスSNSサービスを展開するリンクトインの約2兆8000億円(260億ドル)に次ぐ規模となる。

 ニュアンスはアップルの音声アシスト機能「Siri」の基礎技術を開発した企業として有名だ。だが、実は20年近くにわたって、医師の生産性と作業方法を変革するための音声対応AI型ソリューションを広めてきた実績がある。