>>前編「『愛国』圧力強まる香港のいま、民主派区議が200人以上辞職の異常事態」より続く

今年3月、中国の全人代常務委員会が「愛国者による香港統治」決定案を全会一致で承認したことを受けて、この秋から香港では新制度に基づく選挙が行われる。もともと複雑な香港の選挙制度がますます複雑になる見込みだが、この変更に隠された香港政府の意図とは何か。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

「選挙委員会」とは何か

 以前「中国化が止まらない香港で、移民ブームと公務員の大量辞職が起きる理由」で少々触れたが、今年3月に新たな選挙制度が中国政府のお膝元で可決された。今年10月~来年3月にかけて行われる選挙のうちのいくつかは、新制度に基づいて行われる初めての選挙となる。

 【香港の直近の選挙スケジュール】
 2021年10月 選挙委員会選挙
 2021年12月 最高議決機関の立法会議員選挙
 2022年3月 行政長官選挙

 真っ先に行われる「選挙委員会」選挙については、特に説明が必要だろう。というのも、この選挙委員会は選挙管理委員会とは別物で、その選挙によって選出されるのは代議士でも首長でもなく、“選挙委員”という人たちなのだ。

 選挙委員会は、もともとは香港政府のトップである行政長官を選ぶ行政長官選挙の「候補者指名機関」および「投票母体」として存在していた。それが新選挙制度下で初めて、立法会議員選挙にも導入されることになった。立法会議員選挙での役割はまず「(1)立候補予定者の指名」、そして「(2)選挙委員会選出の立法会議員40人の選出」である。

 立法会議員選挙は新選挙制度下において、議席がこれまでの70人から90人に拡大された。そしてその内訳は、a)事業界選出の「功能組」議員30人、b)市民有権者の投票で選出される地区ブロック議員20人に加えて、c)選挙委員会選出議員40人となる。突然出現した選挙委員会が今後の立法会選挙において、いかに大きな地位を占めることになったかがわかるだろう。

「選挙委員」の人数は1500人に増えるが、投票で選ばれる人は150人のみ

 これまでの行政長官選挙の投票母体だった選挙委員会では、1枠(工業・商業・金融業界)、2枠(弁護士や医師、教師、IT、エンジニアなどのプロフェッショナル業界)、3枠(文化・福祉・宗教・労働団体など社会サービスと水産農業界)、4枠(立法会・区議会・その他地区機関などの代議関係者)から各300人が選ばれ、合計1200人が選挙委員を務めていた。うち、4枠の立法会議員が全員自動的に選挙委員を兼任する以外は、すべて業界従業者個人あるいは業界団体代表の投票によって選出されることになっていた。

 新制度下ではそこに第5枠300人が追加され、総数が1500人となった。中国および香港政府は「選挙委員の総数が増えたことで、さらに広い範囲の意見が反映できる」と喧伝しているが、実状は程遠い。