道の駅なみえ道の駅なみえ Photo by Yohko Yamamoto

「ただいま」は
10年ぶりに故郷浪江で醸す海の男酒

 日本一海に近い蔵といわれた福島県の沿岸部浜通り、浪江町の鈴木酒造店。蔵元杜氏の鈴木大介さんと弟の荘司さんが醸す力強い味は、地元漁師が愛飲する「海の男酒」だった。

 東日本大震災の津波で蔵は流失。原子力発電所事故で避難指示が発令され、故郷の土が踏めなくなった。

 縁あって山形県長井市で酒造りを再開できたが、「いつか必ず故郷で酒造りを」と願い、苦節10年が過ぎた。

 2021年3月20日、とうとう夢がかなう。

 新しい醸造所、浪江蔵は「道の駅なみえ」の中に完成。

 浪江町の人口は、震災前の2万2000人から1700人に減ったが、日中人口はそれ以上に戻った。

 道の駅は復興のシンボルであり、水素発電を行い、生活の利便を図り雇用を促進する、スマートコミュニティーの実現に向けた拠点だ。新蔵は公設民営で、大介さんはゼロから設計に関わった。コンパクト故に長井の蔵は継続し、兄弟が週の半分ずつ交代で二つの蔵を行き来する。

 浪江蔵で使う米は町内の農家、半谷啓徳さんが育てたコシヒカリだ。

「米も、精米から瓶詰めまで、全て浪江町で」と大介さん。

 最新の扁平精米機を導入し、最新鋭の酒造設備は少人数で四季を通じて醸造が可能。甘酒や発泡酒、地元産のハーブや果実を使ったリキュールなど新製品も続々登場する。

 明るい店内の窓からは醸造の様子を見学でき、請戸漁港で上がった魚をあてに、地元相馬焼の杯で酒を楽しめる。

 大介さんは10年ぶりに故郷で醸した酒に「ただいま」と名付けた。

磐城壽 ただいま磐城壽 ただいま
●鈴木酒造店浪江蔵・福島県双葉郡浪江町幾世橋知命寺40●代表銘柄:磐城壽 おかえり、磐城壽 純米吟醸酒、磐城壽 純米酒、土耕ん醸、甦る、親父の小言●杜氏:鈴木大介●主要な米の品種:コシヒカリ