「ラトナー氏がGMのCEO職をオファーしてきた。私はそれにノーと答えた。チャレンジすることを恐れたのではない。非常に興味深い仕事だった。ただ──」

 日産自動車のカルロス・ゴーン社長(仏ルノー会長)は、2009年に米オバマ政権から米ゼネラル・モーターズ(GM)の最高経営責任者(CEO)職を打診されたことを認め、本誌のインタビューで当時の心中を明かした。

「ただ、私は日産、ルノーに忠誠心がある。08~09年は金融危機の真っただ中で、どんなに興味深いチャレンジをオファーされても私が日産とルノーを離れることはなかった」

 ゴーン社長に打診した人物は、オバマ政権下で米自動車産業再生のための作業部会を率いてきたスティーブン・ラトナー氏。そのラトナー氏が10月発売の著書でGMと米クライスラー救済の内幕を暴露した。

 著書では09年3月にGMトップに君臨してきたリチャード・ワゴナー氏を更迭した米政府がゴーン社長に後任就任を申し入れていたことも赤裸々に記されており、出版に先行して現地報道はその内容を書き立てた。

「GMだからノーというわけではなかった。あの厳しい状況下において、私には日産とルノーのCEOとして果たすべき義務があった」とするゴーン社長は両社の経営立て直しを優先した。GMはワゴナー氏辞任以降、リーダー不足に苦しみながらトップが4人も入れ替わることとなった。

 では、もし09年にGMトップへ転身した場合、日産に意中の後継者はいたのか。その問いにゴーン社長は「いなければどうにもならない不可欠な人間などいない。自分自身は不可欠な存在でありたいとは思うが、そうはならない。社内に才能、人材は育っている」と答える。が、現実はカリスマと称され、10年以上にわたり日産を引っ張っている。後継者問題は他人事ではない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

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